【南国荘U-M】 P:07


 
 
 
 どういうわけか、俺と千歳は京都にゆっくり滞在できない星の下に、生まれているらしい。
 千歳と京都に来たのは三度目。
 最初の時は、虎臣がケガをしたと聞いて、夜通し車を走らせ南国荘に戻った。
 次の時も仕事で、タイトなスケジュールだったために、取材を終えるなり東京へ戻った。
 そして、今回だ。

 高速バスの長い移動中、千歳はずっと不安げな顔で、両手を握り締めていた。
 一睡も出来なかったようだ。俺も同じ状況だったから、気持ちはわかる。
 早朝の横浜でバスを降り、自分も南国荘へ戻りたいと言う千歳を、なんとか会社へ向かわせる。
 出張に加えて、代休を取った翌日だ。どんな事情でも、一度編集部に顔を出すべきだろう。
 可能なら編集長である岩橋(イワハシ)さんに話して、早退して来い。状況がわかれば、すぐに連絡する。
 俺の言葉に、責任感の強い千歳は、仕方なく頷いた。
 横浜から電車移動する千歳と別れ、俺は連絡バスを使って羽田へ。置きっぱなしにしていた車を拾って、すぐ南国荘へ向かう。

 混んでいるのがわかりきっている首都高を避け、空いた裏道を選んで、地元の町へと車を走らせていた。
 南国荘まであとほんの、十分くらいだという場所。信号に捕まっていた俺は、見覚えのある制服姿に目を留めた。
 何だ……南国荘で何があったというんだ。
 クラクションを鳴らし、車を近づける。ふらふらと顔を上げた中学生が、俺に気付いて目を見開いた。

「っ!…蓮さん」

 驚いた顔はすぐ、ぐしゃぐしゃに崩れた。目を腫れ上がらせた虎臣は、今にも泣きだしそうな表情だ。
 路肩に車を停め、ハザードをつけて助手席の窓を降ろす。

「お前…どうした」
「帰ってきて、くれたの?」
「ああ。とにかく乗れ」
「でもオレ、ガッコ…」
「いいからさっさと乗れ」

 腕を伸ばして、助手席のドアを開ける。乗り込んできた虎臣は、よほど疲れているのか足元がふらついていた。
 黙って車を移動させる。こんなところに停まっていたら、広くもない町で噂になるのは目に見えていた。

 田舎にはありがちな、バカに広い駐車場を構えたコンビニ。その一番端に車を停め、改めて虎臣を見つめた。
 一晩中泣いていたんだろう。腫れた目蓋の下で、目が真っ赤になっている。憔悴しきっていて、倒れないのが不思議なくらいだ。

「蓮さん…れん、さ、んっオレ…」

 いつもなら生意気な顔で、大人ぶってみせる虎臣なのに。今はそんな余裕もない。息苦しそうにしゃくりあげて泣いている。
 小さな頭を引き寄せると、虎臣は縋り付くように俺の服を握りしめた。
 どうしたんだよ。何がお前をそんなに傷つけるんだ。

「…二宮の兄貴か」

 声も出せずに頷く虎臣の手に、力がこもった。

「もういい。落ち着け、虎臣」
「蓮さん…うん、ごめ…っ」
「何も謝る必要なんかねえよ」