しかし時すでに遅く、彼は南国荘に泊まることをけして覆さなかったらしい。その上、なんとか助けようとする虎臣を、二宮自身が拒絶した。
逆らえない。兄が自分を連れ戻すと言うなら、従うしかない。
二宮は虎臣に、そう語ったらしい。
「…もう、どうしようもなくて。二宮さんはお兄さんと部屋に戻って。咲良さんが、蓮さんたち帰ってきたら、相談しようって言ってくれて。帰って来た榕子さんも、協力してくれるって言ってくれたから」
「ああ」
「だからオレ、とにかく朝まで待とうと思ってたんだけど…」
ぎゅっと目を閉じる。
虎臣は何か、痛みをこらえるような表情で唇を噛みしめた。
「あいつ二宮さんに、酷いことしたんだ」
「酷いこと?」
「…うん」
虎臣は首を振って、押し黙った。
たとえ俺にでも、詳しいことを話したくないんだろう。
固く誓っているのがわかる顔だ。
俺はそれ以上、追求しなかった。大方の予想がついたからだ。
千歳と俺のことを知ったとき、激しい嫌悪感を示した二宮。あの時から俺は、二宮が同性に対して、性的なトラウマを抱えているんじゃないかと思っていた。
「言いたくないことは言わなくていい」
「ごめん…」
「謝らなくていい。それから?」
「うん…それでオレ、二宮さんのこと連れ出しに行ったんだ」
「お前、どうして気付いたんだ」
「ラジャさんが教えてくれて…浩成(ヒロナリ)に止められたんだけど、咲良さんが助けてくれたし…」
「そうか」
「二宮さんにはオレの部屋でお風呂入ってもらって、千歳さんのベッドで寝てもらった」
「いい判断だ」
中学生の頭で、よくそこまで気が回ったもんだ。しかし俺の言葉を聞いた虎臣は、辛そうに首を振る。
「違うよ、違う!オレ何にも出来なかった!なんにも…どうしていいか、わからなくてオレ…」
「虎臣」
「わかんないよ…どうしたら良かったの?オレ…何の役にも、立たなかった…」
「………」
すでに冷めてしまっている缶を握ったまま、虎臣は下を向いて泣きじゃくる。きっと昨日もそうしていたんだろう。
自分が役に立たないと嘆いて。どんなに泣いても、何をしていいのかわからなくて。
「ラジャさんがいなかったら、気付いてさえあげられなかった。咲良さんがいなかったら、助け出すことも出来なかったんだ」
「お前…」
「蓮さんだったらどうしてあげた?千歳さんなら、もっとわかってあげられる?…オレじゃわかんないよ…何にも出来なくて、ただ泣いてるばっかりで…」
手にしている缶を取り上げ、虎臣の肩を引き寄せる。精一杯、二宮を助けてやった細い肩は、悔しがって震えていた。
「二宮さん泣いてた…ずっと泣いてたんだ…なのにオレ、なんにも…」
「お前はよくやった」
「でも蓮さん、オレ…」
「誰でもいいわけじゃない。二宮のそばにいたのが、お前で良かった」