【南国荘U-M】 P:10


 最後まで泣かせてやったんだろう?お前は間違ってなんかいない。そこにいたのが誰であっても、お前がしてやった以上のことは、出来なかったさ。
 肩を撫でて、ゆっくり叩く。
 自分を卑下するな虎臣。

「ラジャがお前に知らせたのは、お前が一番相応しいと思ったからだ。どん底まで傷ついた奴を、一言で救うことなんか誰にも出来ない。お前は出来る限りのことをした。それで十分だ」
「だって、蓮さんならもっと」
「買いかぶるなよ。散々千歳を泣かせてきたのは、俺なんだろ?」

 虎臣が顔を上げる。俺は苦笑いを浮かべて涙を拭ってやった。
 忘れたのか?再会するまでの十年、千歳を孤独の中で泣かせ続けたのは俺。あいつのそばでずっと慰めていたのは、小さなお前と、お前のお袋さんじゃないか。

「二宮がどんなに泣いても、お前はそばにいた。そこにいたのがお前だから、二宮は泣いていられたんだ」
「蓮さん」
「肝心なのは、これからだ」
「…うん」

 小さく頷いた虎臣だが、噛みしめている唇の辺りに、まだ不安な気持ちが見え隠れしている。

「何が出来るかなんて、わからなくていい。一人で考え悩むより、どうして欲しいか、二宮自身に聞いてみろ」
「二宮さんに聞くの?…二宮さんにしてあげたいことなのに…」
「本人に聞くのが一番だろ?もし、あいつにもわからないと言うなら、お前が一緒に考えてやればいい」
「…一緒に考えさせて、くれるかな?」
「言っただろ。二宮はお前に甘えてる。甘えるのは、大切にされていると信じるからだ」

 じいっと俺の顔を見つめて。虎臣はくしゃっと顔を綻ばせ、ようやく笑顔を見せた。

「じゃあオレが蓮さんに甘えてんのも、蓮さんに大事にされてるって、信じてるからなのかな」
「だろうな」
「…大事?オレのこと」
「ああ」
「ちょっと…否定しないわけ?恥ずかしいなあもう」
「悪いか?」

 決まりきったことを聞くな。
 千歳と理子が大切に育てたおかげで、真っ直ぐに成長しているお前のこと、気に入らないはずないだろ。
 平然と答える俺の言葉を聞いて、虎臣は照れくさそうに首を振った。

「…ううん、悪くない」

 ゆっくり俺の身体を押し戻し、助手席で息を吐いた虎臣は、渡してやったタオルでごしごし顔を拭う。現れた表情はどこかさっぱりしたものだった。

「オレ、やってみる。二宮さんに一緒に考えさせてって、言ってみるよ」
「ああ」
「…家を出るときね、咲良さんに二宮さんのこと守ってって、頼んできたんだ」
「咲良に任せたなら安心してろ。あいつは頼りになる奴だ」
「うん」
「兄貴の方は、俺たちが何とでもしてやる」
「なんか、怖いなあ」
「構わないだろ。お前や二宮を一晩中泣かせたんだ。叩き出されるくらいの覚悟はしてもらわないとな」
「だよね」
「二宮のことは、お前に任せる」
「…うん。わかった」

 頷いた顔には、涙の後が痛々しかったが。それでも力強い気持ちが現れていた。
 俺はもう一度、虎臣の頭を撫でてやって。車を南国荘へと走らせた。