南国荘の裏庭に車を停め、とりあず手荷物とライカだけを持って中へ入る。機材を降ろすのなんかいつでも構わない。
キッチンの勝手口から現れた俺と虎臣を見て、ダイニングの咲良が腰を上げた。
「レン!オカエリ!」
「ああ、ただいま」
「トラオミもイッショ?」
「拾ってきた。今日は休ませたんだ」
「ソウ。その方がイイヨ」
足早に俺たちの方へ歩いてきた咲良は、ずっと気にしていたんだろう。虎臣をしっかりと抱きしめてやっている。
ダイニングテーブルで頭を抱えていた男が顔を上げた。あれが二宮の兄貴か?随分、話と違うな。何か憔悴しているように見えるんだが。
「あいつが?」
「ン…ヒロナリ。アオキのオニイサン」
苦笑いの咲良は、理由を知っているのか肩を竦めていた。お前もしかして、俺が戻る前に何か、もうすでにやらかしたのか?
しかしよほど警戒しているのか、虎臣は咲良の腕の中から、その男を睨みつけている。
「二宮は」
「部屋にイルヨ。ヨビに行くまで、降りてこなくてイイって言ったンダ」
「気が利くな」
身体を強張らせている虎臣の頭に、手を乗せた。
「咲良、二宮を連れてきてくれ」
「OK」
「蓮さん…」
「俺たちがついてる。やりたいようにやれ」
「…うん」
咲良は虎臣の額に口付けて、ゆっくり離してやると、二階へ向かった。お前のそういうところが欧米的と言うか、俺にはついていけないんだよ、咲良。
溜息を吐いて、虎臣を伴いダイニングへ向かう。二宮の兄貴はそれを見て椅子から立ち上がり、俺の前に立つと、暗い顔で頭を下げた。
「弟がお世話になっています。二宮浩成と申します」
「ああ、葛 蓮だ。俺に話があるとか?」
顔を上げた浩成は、躊躇う表情を見せていた。なんなんだ。すぐに噛み付いて来るかと思ったのに。
「レン、アオキ連れて来たよ!」
咲良の声に、二宮の兄貴も振り返る。
そうだな。確かに浩成は、南国荘の住人たちに嫌われて当然のことをしたんだろう。二宮の怯えた顔を見ればわかる。俺は咲良に手招きをして、逆に虎臣の身体を押した。
「二宮についていてやれ」
「うん」
虎臣は二宮の隣に立って、迷いもなく手を握る。驚いたようだが、二宮も振り払おうとはしなかった。
二人を見た浩成の表情が、一瞬だが険しくなる。これがこいつの本性なんだろうな。
俺を振り返った時には、さっきまでの暗い表情も、険しさも消えていた。代わりに仮面のような、感情の窺えない笑みを浮かべている。
「それで?」
「はい。長い間お世話になりましたが、蒼紀(アオキ)を連れて帰ろうと思います」
「唐突だな。二宮は同意しているのか?」
俺が尋ねると、浩成は肩を竦めて「優柔不断な子で」と呟いた。
「何も自分で決められないんです。これ以上のご迷惑はかけられませんし、早々に連れて帰りますよ」