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「…おかしな話だな。あんたの弟は、すでに独立しているんだろう?たとえ兄貴であっても、口出しする必要はないんじゃないか」
咎めるような俺の言葉にも、どこか嫌味な表情のまま、浩成は自分が一番、二宮のことを理解しているのだと、話を続ける。
「仕事もクビになってしまったようですし、蒼紀ではどうせ、新しい仕事もなかなか見つからないでしょうから。お気遣いはありがたいのですが、こいつは本当に何も出来ない子なんです。家につれて帰って、地元で仕事を探してやるのが、一番いいんですよ」
困った笑顔で、一方的に語る。親切めいた言葉だが、浩成の目には冷たい光が浮かんでいた。
あまりにも滑稽な口上に、俺は溜め息を吐くしかなかった。
……それはどこの二宮蒼紀の話だ?まさか俺がこの一週間、南国荘を任せていた男のことじゃないだろうな。
こいつは今までも同じように二宮に、自分は何の役に立たないとか、どうせ何も出来ないと、思い込ませてきたんだろう。二宮が何事にも消極的で、謝罪を繰り返すのは、卑下され続けたからなんだろうな。
まったく、馬鹿馬鹿しい。
お前なんかに二宮を返せるか。
「必要ないな」
「え…?」
「連れて帰る必要はない、と言ったんだよ。弟は何も出来なくて、自分では仕事を見つけることすら出来ないんだろ?だったら、ここに置いて行け。俺たちにとっては、頼りになる奴だ。いてもらわないと困るんでね」
浩成が驚くのはわかるが、二宮まで目を丸くしている。今度は俺が苦笑いを浮かべる番だ。
「っ…!勝手なことを言わないで下さい。人の弟を何だと…」
「何も出来ない、手間のかかる弟なんだろ?お前がそう言ったんじゃないか。だからここに置いていけ、と言っている」
「そんなこと!あなたが勝手に決めることじゃない!」
「そうだな。全ては弟が決めることだ。二宮自身がお前と一緒に帰りたいと言うなら、そうすればいいさ。だがあいつの自由を奪う権利は、お前にも誰にもない」
まさか俺からこんな反論を食うとは思わなかったんだろう。浩成は不愉快そうに眉を寄せ、埒が明かないとばかりに、二宮を振り返った。
「蒼紀、帰るんだろ」
「兄さん…」
「帰るよな?ここにいてどうする。お前では葛さんたちに迷惑をかけるばかりだ」
「で、でもぼく」
「帰るんだ。いくらトロいお前でも、もう支度が出来てるんじゃないか?これ以上ワガママを言うんじゃないよ。…大体、母さんがどれほどお前を心配していると思ってる」
畳み掛けるように二宮を説き伏せていた浩成が、最後の手段とばかりに母親のことを持ち出した。途端に二宮が青ざめる。
「俺は母さんに言われて、ここにいるんだ。お前だってもう、母さんに心配はかけたくないだろう?」
「兄さん…」
「母さんを泣かせるのも、いい加減に…」
苛立った俺が、浩成の言葉を止めようとしたとき。先に声を上げたのは、虎臣だった。