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蓮さんはあんまり表情が豊かな人じゃないし、感情に任せて声を荒げたりもしないんだ。でも、だからこそ蓮さんの言葉には、重みがある。
兄さんをたしなめるような言葉。蓮さんの言葉は、年長者として当然の意見なのかもしれない。
だけど兄さんはいつものように、笑いを含んだみたいな話し方で、反論を始める。
「仕事もクビになってしまったようですし、蒼紀ではどうせ、新しい仕事もなかなか見つからないでしょうから。お気遣いはありがたいのですが、こいつは本当に何も出来ない子なんです。家につれて帰って、地元で仕事を探してやるのが、一番いいんですよ」
蓮さんとは全然違う、一方的な兄さんの声。何度も何度も、言われ続けた言葉。
いたたまれなくて、唇を噛み締めた。
わかってる、そんなこと。
でも、何も蓮さんに言わなくたって。
悔しいって、初めて思った。
ぼくを信じて、少しの間だけど南国荘を任せてくれた蓮さんに、そんなこと言わないで欲しい。
だけど、反論することは出来なかった。黙っていることしか、ぼくには。
蓮さんが溜め息を吐く。
咄嗟に下を向こうとしたぼくの耳に、蓮さんの不愉快そうな声が届いた。
「必要ないな」
「え…?」
「連れて帰る必要はない、と言ったんだよ。弟は何も出来なくて、自分では仕事を見つけることすら出来ないんだろ?だったら、ここに置いて行け。俺たちにとっては、頼りになる奴だ。いてもらわないと困るんでね」
驚いたのは、兄さんばかりじゃない。
ぼくはまさか、こんな風に庇ってもらえると思わなくて、思わず蓮さんの顔を見つめてしまう。
苦笑いを浮かべている蓮さんと、目が合った。
ぼくのこと、頼りになるって……そんなはずないのに、でも蓮さんにこう言ってもらえるのは二回目だ。
長崎に行く前も、同じように言って、ぼくなんかに南国荘を任せてくれた。
「っ…!勝手なことを言わないで下さい。人の弟を何だと…」
「何も出来ない、手間のかかる弟なんだろ?お前がそう言ったんじゃないか。だからここに置いていけ、と言っている」
「そんなこと!あなたが勝手に決めることじゃない!」
「そうだな。全ては弟が決めることだ。二宮自身がお前と一緒に帰りたいと言うなら、そうすればいいさ。だがあいつの自由を奪う権利は、お前にも誰にもない」
すうっと目を細くした蓮さんの表情は、一見いつもと変わらないように見える。だけど、毎日ここで一緒にいたからわかった。
怒ってるんだ、蓮さん。
すごく不機嫌そうな顔、してる。
兄さんは、蓮さんに言われたことが、よほど気に入らなかったんだろう。
ぼくを振り返った。
不愉快を隠そうともしない表情を見て、身体が竦んでしまう。
「蒼紀、帰るんだろ」
「兄さん…」
「帰るよな?ここにいてどうする。お前では葛さんたちに迷惑をかけるばかりだ」
「で、でもぼく」