「オレ、自分のことばっかりだ。二宮さんに笑っていて欲しいとか、二宮さんに帰らないで欲しいとか。ほんとバカだよね。そんなことしか考えられないから、いざというとき何の役にも立たない。…何も出来なくてごめんなさい…ほんとごめん…っ」
隠れている目から、涙が零れてる。
否定する言葉を探しながら、でも見つからずに黙って首を振っていたぼくは、虎臣くんの謝罪が自分と同じだって気付いた。
ごめんって言われるより、ありがとうって言われたい。
虎臣くんがぼくにくれた大事な言葉。
一方的に謝罪の言葉を重ねるのは、相手にこんな切なさを感じさせるんだね。
ずっとそうだった?
虎臣くんもぼくが謝るたび、こんな風に切なくなってた?
何も悪くないのに、謝らないで。そんな風に自分を責めないでほしい。
何を言ったら君は、喜んでくれるかな。
「あの…あのね」
「………」
「昨日、その…そばにいてくれて、ありがとう」
「え…?」
「すごく嬉しかった…虎臣くんに一人の方がいい?って聞かれてぼく、怖くなって」
「…二宮さん…」
「でもなんて言えばいいのかわからなくて。ただ首を振るくらいしか出来なくて…それでもそばに、いてくれたよね」
「うん…」
「辛い思いさせて、ごめんね。だけど本当に嬉しかったんだ」
本当だよ。
兄にされたことを君に知られたくなくて、ぼくのせいで君まで傷つけるのが怖かったのに。虎臣くんが一人になりたい?って聞いてくれたとき、それまでよりずっと怖かった。
行かないで、って言いたくて。
でもそう言おうとしてる自分が、とても酷いことをしているような気がして。
混乱して苦しくて、たくさん泣いたけど。
どんなに泣いても君が、そこにいてくれるんだって。そう思ったらすごく安心した。
「さっきも…嬉しかった。虎臣くんが兄さんに言ってくれたこと…」
ぼくのことはぼくが決めるんだって。誰かからそんな風に、言ってほしかった。
でも虎臣くんの言葉を聞いて、他の誰でもダメなんだって思ったよ。
虎臣くんじゃなきゃダメなんだ。
君以外は、イヤだ。
ゆっくり虎臣くんが起き上がる。
ぼくの顔をじっと見て、微笑んだ。
「…良かった」
「うん」
「二宮さんがそう言ってくれて、嬉しい」
優しい言葉なのに、つんっと胸が痛くなった。
だって、さっきはぼくのこと……
「二宮さん?」
「あ…」
「うん?」
「あの、さっき」
「うん」
「さっきぼくのこと…蒼紀って」
兄さんに立ち向かってくれたとき、虎臣くんぼくのこと、そう呼んでくれたよね。
照れくさそうに笑う虎臣くんは、ごめんねと呟いた。
「オレもうなんか、必死でさ…あいつも同じ二宮なんじゃん、って思ったら咄嗟に。…イヤだった?」
「そうじゃなくて、その」