【南国荘U-N】 P:08


「オレ、自分のことばっかりだ。二宮さんに笑っていて欲しいとか、二宮さんに帰らないで欲しいとか。ほんとバカだよね。そんなことしか考えられないから、いざというとき何の役にも立たない。…何も出来なくてごめんなさい…ほんとごめん…っ」

 隠れている目から、涙が零れてる。
 否定する言葉を探しながら、でも見つからずに黙って首を振っていたぼくは、虎臣くんの謝罪が自分と同じだって気付いた。

 ごめんって言われるより、ありがとうって言われたい。
 虎臣くんがぼくにくれた大事な言葉。
 一方的に謝罪の言葉を重ねるのは、相手にこんな切なさを感じさせるんだね。
 ずっとそうだった?
 虎臣くんもぼくが謝るたび、こんな風に切なくなってた?
 何も悪くないのに、謝らないで。そんな風に自分を責めないでほしい。
 何を言ったら君は、喜んでくれるかな。

「あの…あのね」
「………」
「昨日、その…そばにいてくれて、ありがとう」
「え…?」
「すごく嬉しかった…虎臣くんに一人の方がいい?って聞かれてぼく、怖くなって」
「…二宮さん…」
「でもなんて言えばいいのかわからなくて。ただ首を振るくらいしか出来なくて…それでもそばに、いてくれたよね」
「うん…」
「辛い思いさせて、ごめんね。だけど本当に嬉しかったんだ」

 本当だよ。
 兄にされたことを君に知られたくなくて、ぼくのせいで君まで傷つけるのが怖かったのに。虎臣くんが一人になりたい?って聞いてくれたとき、それまでよりずっと怖かった。
 行かないで、って言いたくて。
 でもそう言おうとしてる自分が、とても酷いことをしているような気がして。
 混乱して苦しくて、たくさん泣いたけど。
 どんなに泣いても君が、そこにいてくれるんだって。そう思ったらすごく安心した。

「さっきも…嬉しかった。虎臣くんが兄さんに言ってくれたこと…」

 ぼくのことはぼくが決めるんだって。誰かからそんな風に、言ってほしかった。
 でも虎臣くんの言葉を聞いて、他の誰でもダメなんだって思ったよ。
 虎臣くんじゃなきゃダメなんだ。
 君以外は、イヤだ。

 ゆっくり虎臣くんが起き上がる。
 ぼくの顔をじっと見て、微笑んだ。

「…良かった」
「うん」
「二宮さんがそう言ってくれて、嬉しい」

 優しい言葉なのに、つんっと胸が痛くなった。
 だって、さっきはぼくのこと……

「二宮さん?」
「あ…」
「うん?」
「あの、さっき」
「うん」
「さっきぼくのこと…蒼紀って」

 兄さんに立ち向かってくれたとき、虎臣くんぼくのこと、そう呼んでくれたよね。
 照れくさそうに笑う虎臣くんは、ごめんねと呟いた。

「オレもうなんか、必死でさ…あいつも同じ二宮なんじゃん、って思ったら咄嗟に。…イヤだった?」
「そうじゃなくて、その」