【南国荘U-N】 P:10


 どきどき震える胸に手を当て、ぼくは今、一番望んでいるワガママを口にした。

「じゃあ…あの、ね」
「ん?」
「その…聞いてくれる?ぼくの話」

 母のこと、兄のこと。
 全てを知られたら、虎臣くんに嫌われてしまうかもしれないという思いも、少しだけある。
 でもきっと、そんなことにはならない。
 自分の中でどうしようもなくっているものを吐き出したい。誰かに聞いて欲しい。
 ああ、違うんだ……誰でもいいわけじゃない。虎臣くんだから。虎臣くんにしか話せないと思うから。
 ぼくの中にある言葉は、どれも楽しいものじゃないのに。それを聞かせようなんて、迷惑かな。
 だけどやっぱり虎臣くんは、優しく笑って頷いてくれた。

「いいよ。聞かせて」
「でもあの、嫌な話だから…気持ち悪いと思うかもしれないし」
「蒼紀」
「誰にも話したことなくて、だけど虎臣くんには聞いて欲しくて。聞かされても迷惑だってわかってるんだけど、でもやっぱり」
「蒼紀、ねえ。そんな心配しないで」

 虎臣くんがぎゅっと手を握ってくれる。
 ぼくは息を吐いて、なんとか気持ちを落ち着かせる。
 変だよね。虎臣くんじゃなきゃって思う気持ちは、彼を失う恐怖も孕んでいて。今から話そうとすることは、その怖さを増幅させているのに。
 心のどこかが、虎臣くんを信じたいって叫ぶんだ。
 彼はどこへも行かないでくれるって、信じたい。

「…いいの?」
「うん、聞かせて欲しいんだ。オレに聞かせて、蒼紀」

 ぼくはゆっくり頷いた。
 こんなこと、誰かに話す日が来るなんて思わなかった。