どきどき震える胸に手を当て、ぼくは今、一番望んでいるワガママを口にした。
「じゃあ…あの、ね」
「ん?」
「その…聞いてくれる?ぼくの話」
母のこと、兄のこと。
全てを知られたら、虎臣くんに嫌われてしまうかもしれないという思いも、少しだけある。
でもきっと、そんなことにはならない。
自分の中でどうしようもなくっているものを吐き出したい。誰かに聞いて欲しい。
ああ、違うんだ……誰でもいいわけじゃない。虎臣くんだから。虎臣くんにしか話せないと思うから。
ぼくの中にある言葉は、どれも楽しいものじゃないのに。それを聞かせようなんて、迷惑かな。
だけどやっぱり虎臣くんは、優しく笑って頷いてくれた。
「いいよ。聞かせて」
「でもあの、嫌な話だから…気持ち悪いと思うかもしれないし」
「蒼紀」
「誰にも話したことなくて、だけど虎臣くんには聞いて欲しくて。聞かされても迷惑だってわかってるんだけど、でもやっぱり」
「蒼紀、ねえ。そんな心配しないで」
虎臣くんがぎゅっと手を握ってくれる。
ぼくは息を吐いて、なんとか気持ちを落ち着かせる。
変だよね。虎臣くんじゃなきゃって思う気持ちは、彼を失う恐怖も孕んでいて。今から話そうとすることは、その怖さを増幅させているのに。
心のどこかが、虎臣くんを信じたいって叫ぶんだ。
彼はどこへも行かないでくれるって、信じたい。
「…いいの?」
「うん、聞かせて欲しいんだ。オレに聞かせて、蒼紀」
ぼくはゆっくり頷いた。
こんなこと、誰かに話す日が来るなんて思わなかった。