だってそうじゃなきゃ、自分を好きになってもらえない。
カッコいい大人であることが、誰かを好きなる条件なんだって思ってた。
「蓮さんって、千歳さんの前ではいつも落ち着いてるじゃん?好きな人の前ではあんな風にしてるのが、当たり前なんだって思ってたんだ」
蓮さんはいつでも、自分より千歳さんの気持ちを先に考えようとする。だから誰よりも早く、千歳さんが何を求めてるかに気付いてあげられる。
そういうとこ、理解したとき。オレは大好きだった千歳さんを、諦めるしかなかった。
千歳さんを幸せに出来るのは、蓮さんなんだって。答えに行き着いたオレは、悔しくて泣いたけど。
好きな人には幸せになってほしいって思うの、当然だから。蓮さんの愛し方は間違っていないし、あんな風にできる蓮さんだからこそ、千歳さんに応えてもらえるんだって、思ったんだ。
「いつでも頼りになって、颯爽と助けてあげられなきゃ、いけないんだって。だからオレも好きな人が出来たら、そう出来るんだろうなってさ。…何の根拠もないのに、そんな自分ばっかり想像してた」
「虎臣くん…」
千歳さんを想う気持ちは、蓮さんに負けてしまったけど。いつかオレに、誰にも負けないくらい好きな人が出来たら、きっと蓮さんみたいに出来るんだって。
よく考えもせず、自分を過信していた。
いつかとか、そのうちとか。
理想像を思い描いて、自分はそうなるんだと勝手に信じていたんだ。
なのにオレ、全然成長してない。
努力もしないで叶う夢なんかない。そんなの妄想でしかないんだから。
何かしたい、何かしたいって言うばっかりで。ちゃんと考えられなくて。
挙句の果てには自分のしたいことだけ考えて、それが蒼紀に受け入れてもらえるかどうかを気にして。
めちゃくちゃカッコ悪い。
蓮さんみたいになりたいよ。
あの人が千歳さんを助けるみたいに、オレもこの人を助けてあげたい。
蒼紀の前では、頼れる存在でいたいんだ。
完璧な人間なんかじゃなくていい。ただ蒼紀の前でだけは。
どうしたら、そうなれるんだろう。
答えは出ないのに、時間は待ってくれなくて。オレがしっかりしないうちに、蒼紀は傷つけられてしまって。
成す術もなく、おろおろするばかり。
「…蒼紀の前だと、オレは何も出来なくて。情けないばっかりで、そんな自分がイヤだなって思うのに。じゃあオレ以外の誰かに、蒼紀のこと助けて欲しいのかっていうと、そうじゃないんだよね」
自分じゃ何も出来ないってわかってるんだけど、他の人に蒼紀を助けてもらうのは、どうしてもイヤなんだ。
ワガママだよね。
蓮さんや咲良(サクラ)さんなら、もっとちゃんと助けてあげられるって、わかってるのに。それでもオレは蒼紀を手離したくない。
蒼紀が頼る相手は、いつだってオレでありたいんだ。