「そんなの関係ないじゃん。時間のかかることは手伝うし、蒼紀の気持ちが言葉になるまで、いくらでも待ってる。仕事だってしないんじゃなく出来なかったんだし、千歳さんに借りてるお金があるなら、返し終わるまで協力する」
「虎臣くん…」
「オレはガキで、働くこととか、仕事のことを、ちゃんと理解してはあげられないかもしれない。今はバイトだって出来ない歳だから、そういう協力は出来なくて…役に立たないって、思うかもしれないけど」
ねえ蒼紀。それが遠まわしな断り文句じゃないなら、オレの気持ちを否定しないでよ。
蒼紀の手を握る。熱と一緒に、気持ちが伝わればいいと思ってた。
「好きなんだ。蒼紀しか考えられない」
「うん…」
「もしかしたら蒼紀は、自分のことあんまり好きじゃないのかもしれないけど。そんな風に言わないでよ。オレの好きな人を、嫌いにならないで」
ふうっと肩の力を抜いて、全身をオレに預けてくれた蒼紀は、繋いだ手を両手で包むと、祈るみたいに額に押し付けた。
「咲良さんが、ぼくの価値は虎臣くんが知ってるって言ってた」
「蒼紀…」
「嬉しい…どうしよう、すごく、嬉しい」
オレの手が、蒼紀の涙で濡れていく。
泣きながらオレたちの手を、胸に押し付けて。蒼紀は顔を上げると、微笑んだ。
「ありがとう、虎臣くん」
「…うん」
「ぼくね、自分は一生、誰も好きにならないんだろうなって、思ってた」
「蒼紀…」
「なのにどうしようもなく、好きなんだ」
「え…」
「君が好きなんだ…同じ気持ちでいてくれて嬉しい」
瞳に涙を溜めて笑う蒼紀が、幸せそうだと思うのは、オレの思い込みなんかじゃないよね。
何かシャボン玉みたいなものが、身体中の色んなところで弾けてるような気がして。そんな感覚初めてだけど、正体はわかってた。
幸せなんだ。それってもっと、ガーン!って大きな衝撃なのかと思ってたけど、全然違う。
少しずつ少しずつ、だけど確実に広がっていく。身体の全部に染み渡る。
好きだよ、嬉しい。一緒なんだね。
「オレも、嬉しい」
「うん」
「ね、キスしたい」
「うん…ぼくも、したい」
オレたちはお互い笑いあって、軽く唇を触れ合わせた。
思わずしてしまったさっきのキスとは全然違う。甘くて柔らかい、蒼紀の唇。
「あのさ」
「ん?」
「オレのしたこととか言ったことが、イヤだと思ったときは、時間かかってもいいから言ってね。間に合わないときは、先に殴ってくれてもいいし」
「虎臣くん…」
「ちゃんと謝るから。蒼紀が許してくれるまで、土下座でも何でもするからね」
オレのあまりに情けない宣言を聞いて、蒼紀がくすくす笑う。
「笑うことないじゃん」
「だって」