全体的に少し短くなった程度だけど、目が隠れるくらいに長かった前髪が、さっぱり切られていた。きれいな瞳と、アオキの性格を現すような可愛い頬のそばかすが現れて、印象まで変わったみたい。
チトセに「その方が似合うよ」って言われたアオキ、照れて笑ったのも可愛かったな。
「蒼紀、料理上手いんだし、そういうのは?厨房とか」
「でも、ぼくなんかが…」
「なんかって言わない」
「あ…ごめん。でも本当にぼくの料理じゃ、お店に出せないよ」
「そんなことないでしょ、十分美味しいじゃん。それにお店って、大抵自分とこのレシピがあるんじゃないかな」
「そっか、そうだね…じゃあ大丈夫、なのかな…」
「やってみたい?」
「…少し興味ある、かも」
「うん」
「そういうところで働いたら、蓮(レン)さんや雷馳(ライチ)さんみたいに、もっと料理が上手くなる…かな?」
「オレは蓮さんや雷(ライ)より、蒼紀の作ってくれる料理が好きだけどね」
カウンターに肘を突いて、じっと二人の様子を見守っていたボクは、ゆっくりトラオミに近づいた。
アオキとトラオミが小さな恋を始めたの、素敵なことだと思ってるよ。とくにトラオミは毎日毎日、目を見張るような勢いで成長していく。
自分がアオキを守るんだって、覚悟を決めたせいかな。姿勢が良くなって、背も伸びたように見えるんだ。
……いいことだと、思うけど。
ボクは一人置いていかれたみたいで、やっぱりちょっと寂しい。
「ん〜…将来的には調理師免許とか、あった方がいいのかな。挑戦してみる気ある?」
「ぼくが?」
「もちろん。蒼紀の話をしてるんでしょ」
「そ、そうだね。でも…出来るかな」
「出来るか出来ないかじゃなくて、やりたいかどうかだよ。蒼紀は努力家だしさ、時間さえ掛ければ、絶対取れる」
「そう…かな」
「うん。オレが保障する」
「虎臣(トラオミ)くんが、そう言うなら…」
「じゃあさ、調理師になるにはどうしたらいいのか調べて、それからバイトを探すっていうのは?お金もかかるんだろうし、蒼紀のことだから費用を立て替えてもらうのなんかは、イヤでしょ」
「うん。もうこれ以上は、誰かの迷惑になりたくない」
「迷惑だって思ってるの、蒼紀だけだと思うけどね。どうやって調べようかな〜…千歳さんだったら、何か知ってるかな」
広告とペンを置いたトラオミに、ボクは背後からぎゅっと抱きついた。
「サミシイヨ〜トラオミ〜ッ」
「わかったわかった」
トラオミは驚きもせず、軽い調子で答えるんだ。ボクのハグにも慣れたもの。