振りほどくことも照れることもなく、呆れた顔で笑うから。ボクはトラオミに抱きついたまま、彼の置いた広告に目を遣った。
「トラオミ、ボクのバイトもイッショに探してヨ」
「え、咲良(サクラ)さんもバイトすんの?ギリシャからお父さんたちに、仕送りしてもらうんじゃなかったっけ」
「ジンやママに頼ってバカリじゃカッコ悪いデショ。日本にキタのはボクの勝手。物価タカイしね」
「そっか…じゃあ、オレだけじゃん。仕事せずに遊んでんの」
ちょっと拗ねた顔をしてる。
どんなに大人っぽく見えても、年齢より大人っぽいトラオミだからこそ、大人ばかりの南国荘で感じる悔しさがあるんだろう。
ボクがトラオミくらいの時は、どうだったかな。何も考えず、親に甘えて遊んでばかりいたような気がするよ。
「トラオミのシゴトは、いつもカワイく笑って、ミンナをシアワセにするコト」
「もういいって、その可愛いっていうの」
「ドウシテ?トラオミはこんなにカワイイ」
言いながら、むすっとした頬に唇を押し付けたら、それまで笑顔でボクたちのやり取りを見ていたアオキが、急にトラオミの腕を引っ張った。
「ちょ!だ、ダメですっ」
まるで子供がオモチャを取り返すみたい。
ぎゅうっとトラオミを引き寄せて、驚いたボクの顔と、ニヤニヤ嬉しそうに笑うトラオミの顔を交互に見つめたアオキは、慌てて腕を離した。
「あ、あのっ」
「珍しく素直だな〜」
「違っ…そ、そうじゃなくて」
「妬いてくれたんだ?」
「違うってばっ」
「なんでだよ、妬いたんでしょ?咲良さんがあんなことするの、いつものことなのに。オレが誰かとくっついてんのを見るのは、そんなにイヤ?」
「平気だってばっ…今のはちょっと…なんていうか」
「ふーん、平気なんだ?」
意地悪く笑いながら、今度はトラオミの方からボクにぎゅうっと抱きついてきた。顔を上げて、わざとらしく甘えた声を出してる。
「咲良さ〜ん、オレが咲良さんとくっついてても、蒼紀は平気なんだって!寂しいよ〜慰めて〜」
「虎臣くんっ!」
アオキがすうっと青ざめて声を上げると、トラオミはあっさりボクから離れてしまう。
「あはは!全然平気じゃないじゃん」
「…ひどいよ」
「どっちがヒドイんだよ?…あ〜もう、そんな悲しい顔しないでよ。ごめんね。もうしないって」
慰めるように髪を撫で、トラオミは悲しげなアオキの顔を覗きこんでる。