【南国荘U-P】 P:04


 もう一度「ごめん」と謝っているのを聞きながら、ボクは溜め息を吐いてキッチンを出た。

「言っとくけど、オレは蒼紀が、オレ以外の人とくっついてるなんて、絶対イヤだからね?全力で阻止するし、本気で嫉妬するよ」
「…うん」
「ほら手伝うから。みんなのお昼ご飯、作ろうよ。何したらいい?」

 二人の会話を背中に聞きながら、ボクはリビングで大きなガラス扉のそばにしゃがみこんだ。
 今日は春の陽気を思わせる良い天気。
 庭に続くテラスへのガラス扉を全開にしてる。通り抜ける風、気持ちいいね。
 でもついつい、本日何度目かの溜め息がこぼれてしまった。
 本当にトラオミは……ボクをダシにして。ああいうイタズラに人の心を弄ぶところも可愛いと思うけど、見ている方はやってられない。

「あ〜あ…ボクもレンアイしたいナ」

 レンに失恋して、トラオミの恋を応援することになってしまって。みんなが幸せなのは嬉しいけど、ボクだって幸せになりたいよ。
 むうっと拗ねた顔で庭のグリーンを見つめていると、ふいに声を掛けられた。

「節操なく誰でも口説いて回るからでしょ。自業自得」

 はっと顔を上げる。
 鬱蒼とした緑の中から、きれいな人が現れた。

「おはなやさん!」
「相変わらずの発音だね、君」
「キミ…じゃナカッタ。おはなやさんは、この庭のニュンペーなの?!」

 ニュンペー、妖精の事だよ。
 彼の現れ方は、まさにそんな感じだったんだ。日本人なのに色が白くて小柄で、絵画から抜け出したかように美しい容姿。何の気配もなくグリーンの影から、ボクを見つけて現れた。
 目を見開いているボクを見て、いつもの笑顔が少し不機嫌なものになる。

「誰が精霊だよ。一緒にしないでくれる?」
「ダッテ、ボクがコマッテると、カナラズ現れるデショ」
「僕と会うときの君は、いつも勝手に困ってるんだよ」

 彼が言っているのは、一番最初に南国荘を訪れた日のことだ。
 道に迷って、人に尋ねようにも話を聞いてもらえず、困り果てていたボクに、彼は声をかけてくれた。
 あの時と変わらない笑顔と、辛らつな言葉を聞いて、つい笑みを浮かべてしまう。
 ゆっくり立ち上がって置いてあるサンダルを履いたボクは、彼に近づいた。
 確かにそばで見ると、妖精という感じはしないね。泥だらけの手袋を片手に掴み、さっきまで何かの作業をしていたのか、タオルで汗を拭ってる。