「久しぶりダネ」
「そうでもないんだけどね。ここには、わりと出入りしてるから。何度も君を見かけたよ。榕子(ヨウコ)さんや蓮くんからは、色々聞いてたし」
「ドウシテ声かけてくれナカッタノ?話、したかったナ」
「…君が蓮くんや虎臣くんを口説くのに、忙しそうだったから。かな」
にやりと意地悪な笑みを浮かべるお花屋さんに、ボクは肩を竦めるしかない。
そうだね。確かにボクはこの南国荘に来てからというのも、運命の恋を感じたり、失恋したりと、大忙しだった。
「大学、いつから?」
さらりと違うことを聞いてくれるのは、ボクが悲しいことを思い出さないようにという、彼なりの気遣いなのかな?
日本人の心遣いは繊細で、ボクにはわかりにくいこともあるけど。ワビサビを感じる会話、楽しいよ。
「来週、ニュウガクシキ」
「じゃあまた忙しくなるんじゃない?」
「ソウダネ、ニホンはお休みスクナイ」
「勉強しに来たんだから、頑張れば」
「おはなやさん、キビシイ…」
ボクが拗ねて見せるのに、彼はくすくす笑ってる。そんな風に笑う方が素敵だな。
「…今度は花屋か」
振り返ったら、レンとチトセが並んで立っていた。
「オカエリ!」
「お前は本気で節操がないな」
呆れたようなレンの言葉に、お花屋さんは眉を少し吊り上げた。
「何なの?振った相手に独占欲?隣に恋人がいるのに、いい態度だね」
「…アンタは相変わらずなことで」
「そっちこそ」
肩から小ぶりな古いカメラを掛けているレンと、お花屋さんが言い合ってる。
レンとは親しいのかな。ボクは「キミ」って言っただけで怒らせたのに、レンから「アンタ」って言われても、お花屋さんは気にしていないみたいだ。
チトセが苦笑いを浮かべて、レンに寄り添っていた。
二人の姿はとても自然で、そんな二人を見ていると、少しだけ胸が痛むこともある。だけどそれはきっと、近いうちに消えてしまうと思うんだ。
彼らの幸せそうな姿を見ることは、少しずつボクの喜びになっているから。
「そんな所でなに盛り上がってんの。もうご飯、出来たんだけど?」
大きく開いたドアに寄りかかって、呆れた顔をしているのはトラオミだ。その隣には優しく笑うアオキの姿。
「ご苦労様。ありがとう、二宮(ニノミヤ)くん」
「いえ、そんな」
「未成年二人にご飯の支度任せて、どこ行ってたの?」