「うちの店に寄った時も言ってたよ、榕子さん。私、管理人さんになるの〜って」
「出来るわけないだろ、あの人に」
レンはとうとう溜め息を吐き出した。
ヨウコさん、ボクたちとの暮らしを、そんな風に考えてくれてたんだ。
嬉しいな。ボクはレンと一緒にいたくて南国荘に来たけど、失恋してしまった今だって、ここで暮らすのが楽しい。
家族じゃないけど、家族のように。いつもどこかで、誰かの気配がしてる。本当に毎日楽しいんだよ。
ヨウコさんはボクと同じように、思ってくれてたんだね。
お花屋さんが背の高いレンを見上げて、ふいに尋ねた。
「そういえば内装、いつから?」
「来月アタマからだとさ」
「工事をするのって、榕子さんのお知り合いですよね?ご存知なんですか?」
「この辺の古い人間は、みんな知ってるよ。僕の店も同じ工務店に頼んだし。オヤジは頑固で昔気質だけど、今は息子が建築デザイナーとして、一緒にやってるから。地元以外でも評判いいみたいだね」
「そうなんですか」
「あの子って確か、蓮くんと小学校から大学まで、同じ学校じゃなかった?」
「ああ」
「そうなの?」
「東くんも知ってるでしょ。同じ高校だし」
「ええ?!」
名前を聞いて、チトセはいっそう驚いた顔になりながら、レンに「先に言ってよ!」と訴えてる。知ってる人だったみたい。
むすっとした顔のトラオミが、彼らの話に割って入った。
「あのさあ…蒼紀と話してたんじゃないの」
「ああ、ごめんね。それで住人が増えたり仕事が忙しくなったら、とてもじゃないけど今まで通り、蓮に家事を全て任せるのは無理だし」
「榕子さんに出来るはずもないしな」
「本人はやる気なんでしょ?」
「絶対無理だ。アンタよく知ってんだろ」
「知ってる」
にやにや笑うお花屋さんに、レンは嫌そうな表情。
やっぱりこの二人、けっこう仲がいいみたいだ。ご近所だと言うから、昔馴染みなのかもしれない。
「じゃあ誰か、管理人さんを雇おうかって話になってるんだけど。それなら二宮くんが一番いいんじゃないかって」
「ぼく、ですか?!」
「そうだよ。二宮くんなら少しずつ、蓮から引継ぎしてもらえるし。家事に長けてるのはもう、みんな知ってることだしね。それに君なら任せられるって、蓮自身が言ったんだ」
その言葉に驚いて、レンの顔を凝視するアオキは、少し赤くなってるみたいだ。レンが優しい表情になった。