いつもは何も言わないみたいだけど、レンはアオキのこと、ちゃんと認めてるんだね。
「もちろん、仕事としてお前を雇う以上、給料も払う」
「そんな…っ」
「遠慮する必要はないぞ。金を払うだけの仕事は、きっちりしてもらう。俺としても妥協はしてやれない。まだケガが治っていないから、なんてことはもう言わないしな」
「蓮は仕事になると厳しいよ。同じようにする必要はないけど、慣れるまでは大変だと思う。それにもし、二宮くんに何かしたいことがあるなら、無理にとは言わないから。断ってもいいんだよ」
動揺したアオキは、困った顔でトラオミを見つめてる。柔らかくアオキの背中を撫でてあげたトラオミは、代わりに口を開いた。
「ねえ調理師免許ってどうやって取るの?」
「え?…調理師免許?」
唐突な話に、レンとチトセは顔を見合わせた。トラオミの問いに答えたのは、お花屋さんだ。
「専門学校に通うか、もし二年以上の実務経験があるなら、あとは筆記試験だけだよ」
「専門学校…それって、いくらくらいかかるんですか?」
「さあ…なんだかんだで150万くらいじゃないかな?分割払い出来るところもあるし、今なら補助や給付金もあるだろうから、ちゃんと調べてみれば」
ちょっと悩む顔になったアオキの顔を、チトセが覗きこむ。
「二宮くん、調理師免許を取りたいの?」
「あ…あの、ぼく」
「そういうのもアリかなって、話してたとこなんだよ。…南国荘の管理人じゃ、実務経験にならないですよね?」
「無理だろうねえ」
「そう。だったら飲食店に勤めた方が、いいかもしれないね。管理人の件は気にしないで。君がやりたいと思うことを見つけたなら、その方がいいんだよ。みんな応援してるから」
話しかけるチトセの言葉を聞きながら、俯いて考えていたアオキは、不安そうにトラオミを見つめる。見つめ返すトラオミは、力強く頷いた。
「言いたいこと、言いなよ」
「虎臣くん…」
「大丈夫。まだ何も始まってないんだから、何も終わらない。考える時間が欲しいんだったら、そう言えばいい。気持ちが決まったとき、改めて蓮さんたちに話してもいいんだ」
「………」
「一生のことを決めろって、言われてるんじゃないんだから。いま蒼紀が一番したいことを考えなよ」
とんとん、ってトラオミアオキの背中を叩くの、レンと同じやり方だね。落ち着いて、大丈夫、君の味方だよって。そう伝えるための手段だ。