ボクはつい、ぎゅっと抱きしめて思いを伝えようとしてしまうけど。ああいう穏やかなやり方も、素敵だなって思うよ。
しばらく考え込んでいた蒼紀は、自分で顔を上げてレンを見つめた。
「ぼくに、やらせてください」
「いいのか?」
「はい。慣れるまでは、ご迷惑をお掛けするかもしれないけど。頑張ってみたいんです」
「二宮…」
「調理師免許のことは、ゆっくり考えます。もし決めたら…その時は、ご相談してもいいですか?」
何かがしたいって。アオキが自分で言ったのは初めてだ。
ずっと下を向いて、謝ってばかりで、自分には何の価値もないのだと泣いていたアオキ。たくさん傷ついて、それを自分のせいだと思い込んでいた。
だけど彼はちゃんと、信じられるようになったんだね。みんなに愛されていること。ここにはちゃんと、アオキの居場所があるんだってことを。
トラオミと一緒に始めた恋が、彼を変えたのかな。アオキを見守るトラオミの表情は大人っぽくて、優しく落ち着いたものだ。
レンもそれが嬉しかったんだろう。とても柔らかく微笑んだ。
「わかった。頼むな」
「はいっ」
アオキが嬉しそうに大きく頷いて、トラオミを見つめる。ほっとした表情になったトラオミも「良かったね」と呟いた。
「オレも嬉しいよ」
「ありがとう、虎臣くん」
「蒼紀が自分で決めたことも嬉しいけどさ。オレ、雷が作る高級レストランっぽいメシとか、蓮さんの作るカフェっぽいメシより、蒼紀の家庭的なメシが好きだから。毎日俺のために、美味しいご飯、作ってよね」
「うん。頑張るね」
にこにこ幸せそうな顔で微笑みあう二人の会話に、レンはチトセと、ボクはお花屋さんと顔を見合わせた。
本人たちは全然自覚してないみたいなんだけど。あれってつまり、プロポーズ?
日本では「毎日俺のために味噌汁を作ってくれ」とか言うんじゃなかったっけ。
「おはなやさん…イマの」
「無粋なこと言わない」
「デモ」
「黙ってなさい。…言わぬが花って日本語、知ってる?」
「…シッテル」
ボクは拗ねてもう一度しゃがみこんだ。
知ってるよ、言わぬが花。
口に出して言わない方が、価値があるって意味のことわざだ。せっかく二人が幸せそうなんだから、邪魔をするなと言いたいんだろう。
わかってるけど……やっぱり寂しい。こういう気持ち、日本語でどう言うの?