溜め息を吐くボクの頭の上で、みんなが笑ってる。ますます拗ねたくなっていると、優しい手がボクの髪を撫でてくれた。
「…おはなやさん」
ぼんやり顔を上げたら、お花屋さんが慰めるように、ボクを撫でてくれていたんだ。
きれいな笑顔。
笑った顔には色々あるんだなって、この人を見ていると気付かされる。お花屋さんは出会ったときから、いつも笑みを浮かべているけど。時によっては冷たかったり温かかったりするんだ。
この人は他に、どんな顔を持ってるんだろう。
「留学期間、四年なんでしょ。これから探せばいいじゃない。ギリシャまで連れて帰りたくなるような人」
「…おはなやさんは?」
「え?」
「イッショに来てクレル?」
よく考えもせず、そんなことを聞いてしまった。
ボク自身、聞いてからびっくりした。
お花屋さんも驚いていて、でも困った顔で首を振る。
「残念」
小さく呟いたけど、彼の指はボクの髪を緩く引っ張っていたんだ。甘い仕草に、ちょっと嬉しくなってしまう。
この人のこと、もっと知りたい。
さっき「ぼくの店」って言ったよね。若く見えるのに、ボクよりずっと年上のお花屋さん。お店はどこにあるんだろう。
ボクが口を開きかけたとき、レンがうんざりした声で呟いた。
「誰でもいいのか、お前は」
酷いよレン!
慌てて立ち上がったけど、みんな声を立てて笑ってるし、お花屋さんも可笑しそうにしていて、それがあまりに可愛くて。ボクは反論の機会を失ってしまう。
ちょうどその時、南国荘の中からレイシの声がした。
「お腹すいた〜!ご飯まだ〜?」
みんなが振り返る。
そっと立ち去ろうとするお花屋さんの手を掴み「マタネ」と囁いたら、彼は柔らかく微笑んで、ボクの手を握り返してくれた。
《了》