【南国荘U-プロットH】


H虎臣
レイプ未遂〜その日の夜



・顔色の悪かった蒼紀のことが、頭から離れない。理由はたぶん、唐突に現れた浩成だ。せめて蓮がいてくれたら。

・気になって寝られずにいた虎臣は、部屋の観葉植物が、不自然にざわざわ音を立てているのに気付く。何だろうと、身体を起こした。

・明らかに何かの力が働いて、葉っぱが一枚取れた。それはひらひらと流れて、部屋の角にぶつかり、床へ落ちる。首を傾げて見ていたら、同じことがもう一度。

・自分には見えないけど、この南国荘には精霊だったり精霊じゃなかったり、いろんな存在がいる。千歳が話しかける姿を何度も見ているし、榕子だって自然に話しかける。自分も朝食の席で、見たこともない存在に挨拶するのが、習慣になっていた。

・三枚目の葉っぱが飛んでいく。その先にあるのが蒼紀の部屋だと気付いた途端、虎臣は布団を跳ね除けて部屋を飛び出していた。



・自信はないのに確信があった。この部屋で何かが起きている。

・いつもは鍵なんかかけない蒼紀。今日に限って開かない扉を叩き、蒼紀の名前を呼ぶ。何度目か、不機嫌な顔を見せたのは浩成だった。

・「何時だと思っているんだい?迷惑な」そう言われたけど、虎臣は浩成の身体を押しやって中へ入った。パジャマをかき合せ青い顔でベッドに座っている蒼紀。その目に涙が浮かんでいるのを見て、虎臣は蒼紀の腕を掴み部屋を出ようとする。

・もちろん浩成に止められた。大人の彼には敵わない。でもその浩成を制してくれたのは、騒ぎに起き出してきた咲良だ。

・「もう夜中ダヨ、そんなオオゴエ出さないでクダサイ。トラオミはアオキに話があるんデス。いいじゃナイ、ドコで寝ても」

・それとも蒼紀がここで寝なきゃいけない理由でもあるの?デカい咲良に立ちはだかられ、浩成は忌々しそうに蒼紀を睨んでいる。俯いたままの蒼紀。咲良は二人を部屋の外へ連れ出してくれる。そうして虎臣に悪戯っぽく片目を瞑り「早く行け」と無言で促してくれた。



・蒼紀を自分の部屋につれてきて、ベッドに座らせる。大丈夫?と聞いたけど、彼は顔を上げず何も言わない。どうしよう、何を言えばいいんだろう?

・乱れた蒼紀のパジャマ。何があったかなんて明白だけど、聞いた方がいいのか、それとも…

・蒼紀は下を向いたまま「誰にも言わないで」と呟いた。戸惑う虎臣に「お願い」と「ごめんなさい」を繰り返す。「言わないよ、誰にも」虎臣はそう答えたけど、蒼紀は頷くことすらしてくれない。

・抱きしめてあげればいいのか、触れないほうがいいのか。助けてあげたいのに、何をどうしていいかわからない。自分が情けない。蓮だったらきっと、ちゃんと何かを言ってあげられる。悔しくて泣けてくる。

・絶対言わない。誰にも言わないから…もう、休んで。どうしていいかわからず蒼紀を自分のベッドに寝かせ、虎臣は千歳のベッドに横になった。

・暗くなった部屋の中、いつまでも蒼紀の堪えるような嗚咽が聞こえている。あんなに傷ついているのに、何も出来ないのか。気持ちの行き場がなくて、泣くことしか出来ない虎臣は、そのまま泣きつかれて眠りに落ちてしまった。