【南国荘U-プロットI】


I咲良
騒動の夜〜虎臣の登校



・咲良の夜は遅い。部屋で本を読んでいると、隣の部屋を叩いている虎臣の声が聞こえてきた。尋常じゃない様子に、何事かと起き出せば、虎臣が蒼紀を連れ出そうとして浩成と揉めている。

・青ざめてパジャマの前を握り締めている蒼紀。その蒼紀を庇うように、浩成を睨んでいる虎臣。何があったのか察しがついてしまった。

・浩成が実力行使で虎臣と蒼紀を引き離そうとしている。王子様が助けに来たんだから、諦めればいいものを。咲良は手助けのために歩き出した。

・虎臣の肩を掴んだ浩成の腕を引き離す。「もう夜中ダヨ、そんなオオゴエ出さないでクダサイ。トラオミはアオキに話があるんデス。いいじゃナイ、ドコで寝ても」

・適当なことを言って二人を部屋の外へ引っ張り出した。「それともアオキがココで寝なきゃイケナイ理由デモあるの?」にっこり笑って浩成を見つめる。日本人にとって自分の身長は、威圧感があるとわかっているのだ。

・「咲良…」小さく虎臣が名前を呼んでいる。振り返れば不安げな虎臣が、自分を見上げている。とても勇敢なのに可愛い。ウィンクして、行ってもいいよ、と促せば少年は頷いて蒼紀と一緒に自分の部屋へ逃げて行った。

・舌打ちをしながら蒼紀の後ろ姿を睨んでいる浩成。未練たっぷりといった表情だ。

・「ボクはゴウインなやり方、キライじゃないヨ。でも相手をナカセルのはダメ。ソレはアイじゃないデショ」

・当然のことを諭してやるが、浩成は咲良を睨みつけると何も言わず、思いっきり扉を閉めてしまった。



・朝目が覚めてダイニングへ向かう。あれからどうなっただろう?虎臣は上手くやっただろうか。口説くには絶好のタイミングだと思うけど。

・しかし暗く淀んだダイニングを見て、咲良は肩を竦めた。日本人はどうにも不器用だ。無言でキッチンにいる蒼紀。その蒼紀を心配そうに見ている虎臣の目は、痛そうなくらい真っ赤だった。

・「オハヨウ、トラオミ。痛くナイ?」ちゅっと目元に口付ける。虎臣はただ首を振って「おはよ」と答えてくれた。

・まだ浩成は起きていない様子。無言の朝食は居心地が悪い。それは榕子も同じだったのだろう。溜息を吐いてじっと咲良を見つめる。「さくらちゃんは、何があったのか知ってるの?」「知ってるヨ、ちょっとダケネ」「咲良っ!」慌てて虎臣に止められる。言わないって。

・「あの、さ。オレもう学校行かないと。咲良、門まで見送ってよ」虎臣に言われて腰を上げた。



・玄関から門まで。庭の途中で足を止めた虎臣は、切羽詰った顔で振り返った。

・「なあ咲良…オレが帰ってくるまで、二宮さんのこと守って」「トラオミ?」「あいつがまた何かしないように、お願いだから」「…ハナシ合わなきゃ、何もカイケツしないヨ」「わかってるよ!わかってる…けど…オレのいないところで二宮さんが泣くの、イヤだから…」

・苦しそうな虎臣をぎゅっと抱きしめる。可愛くて勇敢で、優しい子。「カナラズ守るヨ、心配シナイデ」

・うん、と頷いてとぼとぼ歩いていく虎臣を見送り、ダイニングに戻るとそこに榕子の姿はなく、代わりに浩成がいた。

・お前を連れて帰る、荷物をまとめろと一方的に言う浩成。蒼紀は何も答えようとしない。代わりに咲良が「どうしてヒロナリが決めるノ?」と向き合った。

・蒼紀は自分の弟。こいつは何も出来ないし、自分で決められない。だからオレがが決める。傲慢な浩成の言葉を聞いていられなくて、とうとう蒼紀は逃げ出してしまった。

・咲良は溜息を吐く。彼らは何一つコミュニケーションを取らないまま、これまでやってきたのだろうか。蒼紀は何も出来なくなんかない。南国荘のことをちゃんとやってる。わかってないのは浩成の方だ。

・「ヒロナリはアオキの何を見てキタノ?ちゃんとカレのコトバを聞いてアゲタ?アオキはずっと、ゴメンナサイばかり。だから聞けなカッタ?それとも聞こうとシナカッタ?」咲良の言葉に浩成は「聞かなくてもオレにはわかっている」と言うけど、そんなはずはない。

・「アイシテルって言わないのに、ワカッテもらえないのはアタリマエ。ナニモ言わずにハグしたりキスしたりセックスするノハ、暴力ダヨ。日本はチガウの?」愛情を与えず快楽だけ与えてわかってもらおうなんて、虫が良すぎる。

・「そんなのキラワレて当然デショ。アオキはヒロナリのこと、キライだと思うヨ」ばっさりきっぱり。浩成は青ざめて、咲良を見ていた。