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⑪蓮
登校中の虎臣~南国荘帰宅
・火曜の朝に東京へ着いた蓮は、そのまま会社まで千歳を送り、南国荘へ向かっている。非常に充実した長崎でした。(とは、書かないと思うけど)
・信号待ちの車内から、とぼとぼ歩いている虎臣を発見。クラクションを短く鳴らすと、それに気づいて顔を上げた虎臣は、蓮の顔を見るなりくしゃりと表情を歪めてしまう。「お前…どうした」
・路肩に停めた蓮の車まで来た虎臣は、開いた窓に手をかけて「蓮さん…」と呟いたなり泣き出した。青ざめた顔。泣きはらした目。尋常ではない様子を見て蓮は「とにかく乗れ」と促した。
・しばらくは何も言わず、助手席の虎臣を見つめる。少し考えて「お前今日、重要な授業はあるのか」と聞いた。テストも何もないという答え。蓮は携帯を取り出し、虎臣の学校へ休ませる旨を伝える。
・「…いいの?」厳しい蓮なのに。しかしこんな状態で学校へ行って、マトモに授業を受けられるはずもない。「少し走るか」と呟いて、蓮は車を出した。
・車で話す、というのは意外と効果的な手段だ。誰も聞いていないし、逃げ場はないし。お互い見つめ合う必要もない。虎臣は少し経ってから「昨日、二宮さんのお兄さんが来たんだ」と話し出す。
・「蓮さんたちがいない間、けっこう上手くやれてたんだ。咲良と二宮さんと三人で鎌倉行ったり。でもお兄さんが来たら、また二宮さん黙り込むようになって。昨日の夜…その、お兄さんに何か言われたみたいで。ラジャさんに教えてもらってオレ、二宮さん連れ出しに行ったんだけど…二宮さん、泣いてて。なのに、何も出来なくて」
・ちらりと虎臣を見れば、悔しそうにまた涙を溢れさせている。蓮は山道の途中で車を停めた。
・「蓮さんだったらきっと、ちゃんと出来たのに。オレ、何も言ってあげられなかった。蓮さんが千歳さん守るみたいに、ちゃんとしたかったのに、何も…」苦しげな様子で涙を零している。随分と買いかぶられたものだ。
・「ガキが大人ぶるんじゃねえよ。お前にはお前にしか出来ないことがあるだろ」自分が中学生の頃なんか、周囲に流されるだけで、虎臣よりもっと何も考えず、何も出来ないガキだった。「そもそも、そんな何でも出来たら、十年前に俺は千歳を泣かせなかったぞ」でもあの十年があったから今がある。人生に必要ないものなんか、何もない。
・どうしていいかわからないなら、二宮に聞いてみればいい。二宮にもわからないなら、二人で考えればいいじゃないか。蓮にそう言われて、虎臣はようやく頷いた。
・車を南国荘へ走らせる。「午後からでも学校行けって言わないんだ?」少し笑う虎臣に「そんな顔で学校行くのか?」と返してやれば、慌ててミラーを見上げている。腫れぼったい目。こんな状態で学校へ行けば、噂の的になるのは目に見えていた。
・たどり着いた南国荘。虎臣に手伝わせて機材を下ろす。リビングに入れば、咲良と自分の荷物を手にした浩成がいた。驚く虎臣に、咲良がにこりと笑う。ちゃんと守ったよ、と言いたげだ。
・社会人として蓮は浩成に挨拶。でも虎臣を庇いつつ、ちくりと釘を刺すことも忘れない。意気消沈の浩成は「蒼紀のことをよろしくお願いします」と頭を下げた。
・浩成の帰った南国荘。何を言ったんだ?と問いかける蓮に、咲良はあっさりと「別にナニモ。オカシなことは言ってナイヨ。ただアオキはヒロナリのことキライだって言ったダケ」…どうやらギリシャ人は何事も直接的なようで。
・蒼紀はどうしたのかと聞けば、部屋に篭って出てこないという。蓮は虎臣を振り返り、そばにいてやれ、と促した。
・二階へ駆け上がっていく虎臣。一人前には程遠いが、なかなかあれで、男の顔になってきた。千歳がどう言うかはわからないが。
・世話になったようだな、と咲良に話しかけた。同じように虎臣の背中を見送っていた咲良は、笑顔で蓮に「それよりナガサキのハナシ聞かせてヨ。チトセをちゃんとアイシてアゲタ?」と聞いてくる。興味深々の顔だった。(いま気付いた。ここって、咲良が「虎臣が可愛い」的なこと言うべきだよね)