【南国荘U-プロットK】


K蒼紀
蓮の帰宅〜過去の告白



・じっと膝を抱える蒼紀は、浩成が荷物を取りに来たときも顔を上げなかった。兄はただ一言「帰る」と言っただけ。でも凍りつくような束縛感が消えない。

・外から扉を叩く音。二宮さん、開けてもいい?と躊躇いがちな声がして、虎臣が入ってきた。

・虎臣がそばに腰を下ろしたのに、顔を上げられない。いや虎臣だからこそ顔を上げられないのか。彼には昨日のことを、全部知られてしまったから。

・しばらくして、しゃくり上げる声。何事かと顔を上げれば、虎臣が泣いている。

・「ごめんな…何も出来なくてごめん…オレ、二宮さんにそんな顔させたくなかったのに。全然役に立たなくて」「二宮さんが笑ってくれるようになって、すげえ嬉しかったのに…また笑えなくなっちゃうよな…ごめんな、オレのせいだ」

・違うよ、虎臣くんのせいじゃない。そう言ってあげたいのに、言葉がうまく出てこない。蒼紀が黙っている間にも繰り返される、ごめんという言葉。

・虎臣に言われたことがある。ごめんじゃなく、ありがとうって言われたい。自分が謝るたび、こんなにも人を苦しめていたのだろうか?虎臣の謝罪が辛くて、蒼紀は今までの自分を後悔する。

・今までずっと、下ばかり向いていた。嵐が過ぎ去るのをずっと耐えていた。自分さえ傷つけば、誰も傷つけずに済むのだと思って。でも自分が傷つき続ければ、それを見ている人まで傷つける。蒼紀は何度か唇を噛んで「泣かないで」と呟いた。

・「あの、ね…昨日助けに来てくれて…その、ありがとう。すごく、嬉しかった。虎臣くんの顔、見たら…ほっとしたんだ」「二宮さん」「蒼紀で、いいよ」他人行儀に呼ばれるの、寂しい。蒼紀がそう言うと、虎臣が優しく微笑んでくれた。「…蒼紀?」「うん」名前を呼ばれるのが嬉しいなんて、初めて思う。

・蒼紀は躊躇いがちに手を伸ばし、虎臣の袖を掴んで目を閉じる。この子の為にも、自分の傷を乗り越えたい。

・「あの…聞いて、くれる?」「うん」「えっと、すごく嫌な話かもしれないんだけど…虎臣くんに、聞いて欲しくて」「いいよ、何でも話して…蒼紀」ぎゅっと手を握ってくれる温かさに安心して、蒼紀は自分の身の上話を始める。



・母が再婚して、自分の居場所がなくなったように思って苦しかったこと。家でも学校でも孤立していた蒼紀を、浩成だけが見ていてくれたこと。その浩成に押し倒されてびっくりしたこと。お前が誘った、と言われ抵抗できなかったこと。怖くて浩成を避けたら、母が心配してくれたこと。自分のせいで母を苦しめていると思ったから、我慢するしかなかったこと。

・逃げ場を失い苦しさに耐えかね、東京へ出てきた。千歳に「何がしたいの?」と問われても、ただ逃げ出してきた蒼紀には何も答えられない。

・虎臣は青ざめて、自分の方こそ辛そうに蒼紀の話を聞いているけど。握った手を離さないでいてくれた。