【南国荘V-2日目】 P:02


【二日目】

・どうやらライチはかなりの宵っ張りらしい。夜を中心に車を走らせる十塚だが、彼は少しも眠そうな顔をしないのだ。
口数が少ないものの、十塚に言葉をかけられれば返事を返す。取引先の会社でも、ちゃんと頭を下げて挨拶を口にしていた。もちろんかなり小さな声だったが。

・二ヶ所で荷物の積み下ろしをして、仮眠を摂って食事をして、二日目の夜中にたどり着いたのは、長野のかなり田舎にある中継地。
絶対勝手に降りるな(危険なので)、と言ってあるから、ライチは十塚が言うまでドアを開けない。
先に降りた十塚は助手席側に周り、ドアを開けた。食事をしたのは数時間前だし、とくに用はないだろうけど。群馬を過ぎた辺りから降りだした雪に、ライチが目を輝かせていたのは気付いていた。
「降りるか?」
「…いいの」
「邪魔だけはするなよ」
「…うん」
ゆっくり降りたライチは、少し表情をやわらげて雪の感触を確かめるように、足跡のない場所を踏みしめている。しばらくしてようやく寒さに気付いたのか、細い身体を抱きしめた。
「ライチ、これ着てろ」
自分の着ていた分厚いブルゾンを肩にかけてやった十塚は、社名の入った薄い作業着を羽織った。どうせこれから力仕事だ。すぐ身体は温まる。

・後部ドアを開けて荷物の整理をしていたら、さくさくと足音が近づいてきた。十塚が振り返ると、ライチが中を覗きこんでいて。
「どうした」
「…手伝う」
「いらねえよ。そんな細い腕で出来ることなんかねえ」
「…手伝う」
「だから、いらねえって」
「…手伝う」
控えめで物静かなわりに、とてつもなく頑固。溜め息を吐いた十塚は、ライチの身体を軽々と引っ張り上げた。クリップボードを手渡し、簡単なチェックだけ任せてやったら、彼はおとなしく十塚の指示に従った。

・さっさと仕事を終わらせ、二人は運転席に戻った。十塚の乗っているトラックには、運転席のすぐ後ろに、仮眠スペースが設けられている。
「ライチ、お前はここで寝ろ」
「…十塚は?」
「俺は運転席だ」
「…だめ、ぼくがこっち」
「馬鹿言うな。こういう場所で寝るのはコツがいるんだよ」
「…でも…じゃあ、一緒に寝る」
ぽかんとしてしまう。こんな狭い所に二人で横になったら、イヤでも身体を密着させることになるだろう。
しかしやっぱりライチは言うことを聞かないし、問答を続けていたら、寝る時間がなくなる。
「…二人の方が、あったかい、から?」
最後の疑問形が引っかかるが、根負けして十塚も仮眠スペースに移った。
ただの言い訳かと思っていたのに、並んで横になると、ライチが身体を寄り添わせて。そこでようやく十塚は、彼が寒さに震えていることに気付く。
「ったく…早く言えよ馬鹿」
「…ごめん、なさい」
なんとなく子供みたいだな、と思いながらそっとライチの身体を引き寄せてやった。すっぽり十塚の腕の中に納まったライチは、すぐに寝息を立てて。
こんな近くで人の息遣いを聞くのは、どれくらいぶりだろうと考える。さらりとした髪を撫でていると、ちょっと鼓動が早くなってしまう気がして、十塚は温かな、しかしよく眠れないまま時間を過ごしていた。