【南国荘V-5日目】 P:05


【五日目】

・最終目的地の福岡到着。大阪(兵庫?)の部長から連絡があったらしい。顔馴染みの社長がすっ飛んできた。
若い十塚相手だというのに、彼は深々と頭を下げて、自分の勘違いと先走りを詫びる。とんでもないと恐縮するが、社長は譲らない。
「君が若いとか、私が社長だとか、そんなことは関係ない。自分の失態は素直に詫びる。それが私の信条だ」
ちらりと隣に立っているライチを見た。彼なりに思うことがあるのだろう。自分の所業と重なったのかもしれない。
関係ない立場だが、じっと社長の言葉に耳を傾け、十塚を見上げて、無言のままこくんと頷いた。

・社長が謝罪の代わりにと、取引先の為に常時押さえているホテルを、一泊だけ用意してくれた。固辞しても良かったのだが、ライチの為だと思って素直に好意を受けることにした。
慣れないシティホテルだが、躾けの行き届いたホテルマン達は、トラックドライバーの十塚にも、変わらぬ笑顔を向けてくれる。
「明日、博多駅まで送ってやるから。新幹線で東京へ帰れ」
「……うん」
パートナーだと言う男に、約束したことだ。社長の言葉も効いたのだろう。ライチは素直に頷き、十塚の服を緩く引っ張った。
「何か欲しいものがあるか?」
問いかけた十塚に、ライチは少し考えて。
「…明日、新幹線乗る前に、紙とペンが欲しい…帰るまでに…ネーム、する」
「わかった」
「…それから」
「それから?」
「…とつか、が…ほしい」
目に涙をためて。震える指先で十塚に縋って。不安そうに薄く開いた唇。こんな綺麗な生き物、他にいるはずがない。
十塚は観念して、ライチを引き寄せた。一夜限りの夢かもしれないけど。身の内に燻る不安ごと、ライチの身体に優しく触れた。