【南国荘V-6日目】 P:06


【六日目】

・十塚がふっと目を覚ますと、気を失うまで抱いてやったライチが、身を起して十塚を見つめていた。
「また泣いてんのか。よく泣く奴だな」
苦笑いして十塚も身体を起こし、ライチの涙を拭ってやる。どうしたと問えば、彼は悲しそうに首を振って。それから躊躇いがちに呟くのだ。
「…とつか…ほしいもの、もういっこ」
「なんだ」
「…やくそく」
「約束?」
「…待ってる…待ってて、いい?」
不安はお互い様なのだろう。控えめなライチの言葉に、十塚は口付けて、東京に帰ったら必ず会いに行くと答えた。
帰路はフェリーになる。こっちでの仕事をこなし、海路で戻って、報告を済ませて…会いに行けるのは一週間後だ。
「待っていられるか?」
「…うん。ずっと、まってる」
「わかった。必ず会いに行く。約束だ」
別れの時間までもう少し。時を惜しむように、もう一度身体を重ねた。
(二回もアクション入れればいーかなあと)

・取引先に頼んでしばらくトラックを預け、営業車を借りた。
博多駅までライチを送り、新幹線の時間まで二人はのんびり買い物。ライチに頼まれた紙とペン。車内で食べる昼食と飲み物。何かあると困るので、現金も少し渡しておく。
二人は別れを忘れようとでもいうように、恋人同士の短い時間を味わった。

・新幹線の時間が迫る。乗り場のある新幹線中央口に向かう途中、元より無口なライチの口数はさらに減り、足取りも重くなる。
さみしい、さみしいと、無言で訴えるライチの身体をひと目も気にせず抱き寄せた。
「約束しただろ」
「…うん。待ってる」
「一週間だ」
「…うん」
「頑張って仕事、片付けとけよ?寝かさないからな」
ひそひそ囁いた十塚に、ライチは顔を上げて微笑んだ。初めて見るような、幸せそうな笑顔だ。
「…わかった。がんばる」
「ああ」
「…十塚も、気をつけて」
「おう。さんきゅ」
名残惜しく繋いだ手を、そっと離してライチを見送る。何度も振り返るライチがようやく見えなくなって、十塚は一人博多駅を後にした。

・取引先に戻り、いつものように荷物の積み下ろしをして、事務所に顔を出し社長にも挨拶を済ませ、いつものように出発。
ライチがいたのは一週間足らずなのに、誰もいない助手席がさみしい。
なんだか一人に戻ると、全てが夢だった様な気さえする。
「…このまま、忘れた方がいいのかもな」
ぽつりと呟いた。あまりにも綺麗で、出来すぎた夢を見ていたような気分。
自分には過酷な仕事と、大きな夢がある。もし一週間後、会いに行っても。一緒にいられる時間は少ないだろう。
拠り所を見つけてしまったら、走り続けていられるか自信がない。だったらこのまま。
ぎりっと唇を噛み締めた十塚は、いつものクセでタバコに手を伸ばしたものの、ライチの声が聞こえたような気がして、苦笑いを浮かべ手を引き戻した。
「俺なんか待つな、ライチ」
誰にも届かない言葉を口にして、十塚はトラックを走らせる。
(という不安を残してみる)