【Will x Leff A】 P:02


 少し辛そうに眉を寄せ、何度かまばたきをして、ゆっくりまぶたを上げる。
 ぼんやりした瞳が、間近にあるレフの顔を見て、わずかに光を取り戻した。
 甘い飴のような、アメリアと同じ瞳の色。レフはほっと息を吐く。

「おはよう、ウィル。気分はどうだ?」

 ようやく回復の兆しが見えてきたということだろう。
 一昨日に意識を取り戻してから、彼はこうして一日に何度か目を覚まし、しばらくすると眠りに落ちるかのようにまた気を失う。
 レフは公務を放り出して、そんな彼の枕元にずっと座っていた。

 レフの問いかけに、少年は黙って頷いている。まだ声を出すのは辛そうだ。
 そうかと頷いて、レフは華奢な指でウィルの髪を梳いてやった。
 指先に触れる肌が熱い。
 何カ所も骨折しているというから、発熱は当然のものなのだが。苦しげな息づかいを見ていると、どうしても心が痛んだ。

「少しでいいから、水を飲みなさい」

 横になったままでも飲めるよう工夫されている容器を、ウィルトにかざして見せる。小さく頷いたウィルの口元に挿し入れてやると、少年はなんとか一口だけ水を飲んだ。

「よしよし、偉いぞ。
いい子だなウィル

 微笑みかけるレフに笑みを返し、少年は潤った唇を小さく開いている。何か言おうとしているのだと気づいて、レフは首を振った。

「まだ話さない方がいい。もう少し良くなったら、いくらでも聞いてやるから。な?」

 優しく諭すのだが、ウィルは悲しげに瞳を伏せ、僅かに頭を横へ振る。仕方なくレフは彼の手を握って、口元に耳を寄せた。

「どうした?何か欲しいものがあるか?」
「あな、た…は…」
「え?」
「あなた、は、だ…い、じょ…ぶ?」

 ―――貴方は大丈夫?

 掠れた声。聞き取りにくい小さな問いかけは、少年の精一杯な気遣いに溢れていた。
 どんなに痛くて、苦しいだろうと思うのに。この子は自分のことよりレフを心配して、必死に声を絞り出しているのだ。
 驚きに大きく目を見開いたレフは、すぐにその目を強く閉じた。
 確かにレフは、ウィルトの看病を初めてから、ろくに食事も睡眠も摂っていない。魔族であり賢護石である以上、少しぐらいの無理は平気な身体だが。誰が見てもわかるくらい、今のレフは顔色が悪かった。
 休んでいないことと、ウィルトを心配していることと。レフが疲れきっているのは、幼(イト)けない瞳にも明らかなのだろう。

 金色の睫が震える。どうしようもなく泣きたくなる。
 この子は自分が怪我をした原因が……嵐の夜に母が家を飛び出した原因が、レフだなんて。思いもしないのだろう。
 だからレフを心配して―――懸命に、言葉を紡いで。
 繋いだ手をぎゅうっと握りしめる。
 目を開けたレフは、鮮やかな色の瞳を潤ませて、柔らかく微笑んだ。

「私は大丈夫だ。大丈夫だよ、ウィル。心配しなくていい…ありがとうな」

 何度も何度も髪を撫でる。額に頬に、柔らかく唇を押し付けて、大丈夫だと繰り返す。
 くすぐったそうに目を細め、ウィルトは安心したように頷いた。

「明日は少しだが、お母さんが来る。夜にはお父さんもな。しかし二人が帰っても…お前が、元気にここから帰る日まで。きっと私がそばにいるから」
「っ…ぅ、あ…」