少し辛そうに眉を寄せ、何度かまばたきをして、ゆっくりまぶたを上げる。
ぼんやりした瞳が、間近にあるレフの顔を見て、わずかに光を取り戻した。
甘い飴のような、アメリアと同じ瞳の色。レフはほっと息を吐く。
「おはよう、ウィル。気分はどうだ?」
ようやく回復の兆しが見えてきたということだろう。
一昨日に意識を取り戻してから、彼はこうして一日に何度か目を覚まし、しばらくすると眠りに落ちるかのようにまた気を失う。
レフは公務を放り出して、そんな彼の枕元にずっと座っていた。
レフの問いかけに、少年は黙って頷いている。まだ声を出すのは辛そうだ。
そうかと頷いて、レフは華奢な指でウィルの髪を梳いてやった。
指先に触れる肌が熱い。
何カ所も骨折しているというから、発熱は当然のものなのだが。苦しげな息づかいを見ていると、どうしても心が痛んだ。
「少しでいいから、水を飲みなさい」
横になったままでも飲めるよう工夫されている容器を、ウィルトにかざして見せる。小さく頷いたウィルの口元に挿し入れてやると、少年はなんとか一口だけ水を飲んだ。
「よしよし、偉いぞ。いい子だなウィル」
微笑みかけるレフに笑みを返し、少年は潤った唇を小さく開いている。何か言おうとしているのだと気づいて、レフは首を振った。
「まだ話さない方がいい。もう少し良くなったら、いくらでも聞いてやるから。な?」
優しく諭すのだが、ウィルは悲しげに瞳を伏せ、僅かに頭を横へ振る。仕方なくレフは彼の手を握って、口元に耳を寄せた。
「どうした?何か欲しいものがあるか?」
「あな、た…は…」
「え?」
「あなた、は、だ…い、じょ…ぶ?」
―――貴方は大丈夫?
掠れた声。聞き取りにくい小さな問いかけは、少年の精一杯な気遣いに溢れていた。
どんなに痛くて、苦しいだろうと思うのに。この子は自分のことよりレフを心配して、必死に声を絞り出しているのだ。
驚きに大きく目を見開いたレフは、すぐにその目を強く閉じた。
確かにレフは、ウィルトの看病を初めてから、ろくに食事も睡眠も摂っていない。魔族であり賢護石である以上、少しぐらいの無理は平気な身体だが。誰が見てもわかるくらい、今のレフは顔色が悪かった。
休んでいないことと、ウィルトを心配していることと。レフが疲れきっているのは、幼(イト)けない瞳にも明らかなのだろう。
金色の睫が震える。どうしようもなく泣きたくなる。
この子は自分が怪我をした原因が……嵐の夜に母が家を飛び出した原因が、レフだなんて。思いもしないのだろう。
だからレフを心配して―――懸命に、言葉を紡いで。
繋いだ手をぎゅうっと握りしめる。
目を開けたレフは、鮮やかな色の瞳を潤ませて、柔らかく微笑んだ。
「私は大丈夫だ。大丈夫だよ、ウィル。心配しなくていい…ありがとうな」
何度も何度も髪を撫でる。額に頬に、柔らかく唇を押し付けて、大丈夫だと繰り返す。
くすぐったそうに目を細め、ウィルトは安心したように頷いた。
「明日は少しだが、お母さんが来る。夜にはお父さんもな。しかし二人が帰っても…お前が、元気にここから帰る日まで。きっと私がそばにいるから」
「っ…ぅ、あ…」