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ディノはレフのそばへ歩いてくると、労うように小さな肩を叩いた。
「あまり根を詰めるなよ」
「私は大丈夫だ。ウィルの調子も随分いい様だしな。そろそろ家へ帰してやらなければ…アメリアも心配で、落ち着かないだろう」
「そうか」
「…私があの子のそばにいてやれるのも、あと少しだな」
レフは小さく呟いて俯いた。鮮やかな金色の髪が、表情を隠している。しかしいくら押し隠しても、付き合いの長いディノには、レフの気持ちが手に取るようにわかった。
アメリアが生まれるよりも、さらにずっと前から共にラスラリエを支えてきた、かけがえない仲間。全ての事情は承知しているし、レフの性格も理解している。
亡くなった先代の紫の賢護石アルダが、よく零していた。レフは「無自覚な強がりやさん」だと。
ウィルトが愛しいなら、アメリアにしてやれなかったことを、存分にしてやればいいと思うのだが。
そんなことを言ったって、レフは首を縦に振らないだろう。
「お前は頑固だからな」
ぼそっと呟いたディノの声が聞こえなかったのか、レフは首をかしげた。
「なんだ?」
「なんでもない。心配しなくても、まだしばらくは王宮に通って、治療を続けることになるんだろう?そう寂しがるな」
「誰が…っ!」
ムキになって反論しようとするレフをさらっとかわし、ディノは肩を竦めて大鍋に近づいた。
「それにしても、久々にお前のメシが食えるなあ。ここの料理人たちはみんな優秀だが、作る物が整いすぎていて、飽きてくる」
鍋の蓋を開け、嬉しそうに呟いたディノの後ろ姿。反発する気も失せて、レフは呆れ顔になってしまう。
あまり知られていないが、これがディノの本当の姿だ。
賢護五石をまとめ、ラスラリエを導き、同時にああやって、子供のような顔でシチュー鍋を覗き込むような男。
「一人で食い尽くすなよ、ディノ」
釘を刺してやると、彼は渋い顔でレフを振り返った。
「こんな旨そうな物を前にか?難しいことを言う奴だな」
「リュイスに喚かれたかったら、好きなようにしろ」
「…確かに煩そうだ。仕方ない、早めに食いに来いと言っておけ」
残っている保障はないが、と聞こえないような声で付け加えているディノに、レフは笑みを浮かべて頷いた。
ベッドの上で身体を起こせるようになったウィルトの口元に、レフはせっせと匙(サジ)で食事を運んでやる。
本当ならもう、自分で食べられるはずなのだ。腕の治療も終っているし、自分で身を起すことも出来る。
しかし母親と離れているせいか、ウィルトは何かとレフに甘えたがった。
用があってレフがそばを離れている時は、侍従や看護師たちに頼ることなく、落ち着いた様子なのに。レフが戻ってくると、途端に子供の顔で甘えるのだ。
もちろんそれは、あと少しだと思って甘やかし放題のレフにも、問題があるだろう。
「旨いか?」
「うん」
「そうか。良かったな」
食事時の面倒はずっと見てきたものの、レフが自分で作ったものを食べさせたのは、これが初めてだ。
今までは頑張っていても、あまり食が進まない様子のウィルトだったのに。今日はきれいにシチューを平らげてしまった。