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【Will x Leff ②】 P:04


 ディノはレフのそばへ歩いてくると、労うように小さな肩を叩いた。

「あまり根を詰めるなよ」
「私は大丈夫だ。ウィルの調子も随分いい様だしな。そろそろ家へ帰してやらなければ…アメリアも心配で、落ち着かないだろう」
「そうか」
…私があの子のそばにいてやれるのも、あと少しだな」

 レフは小さく呟いて俯いた。鮮やかな金色の髪が、表情を隠している。しかしいくら押し隠しても、付き合いの長いディノには、レフの気持ちが手に取るようにわかった。

 アメリアが生まれるよりも、さらにずっと前から共にラスラリエを支えてきた、かけがえない仲間。全ての事情は承知しているし、レフの性格も理解している。
 亡くなった先代の紫の賢護石アルダが、よく零していた。レフは「無自覚な強がりやさん」だと。
 ウィルトが愛しいなら、アメリアにしてやれなかったことを、存分にしてやればいいと思うのだが。
 そんなことを言ったって、レフは首を縦に振らないだろう。

「お前は頑固だからな」

 ぼそっと呟いたディノの声が聞こえなかったのか、レフは首をかしげた。

「なんだ?」
「なんでもない。心配しなくても、まだしばらくは王宮に通って、治療を続けることになるんだろう?そう寂しがるな」
「誰が…っ!」

 ムキになって反論しようとするレフをさらっとかわし、ディノは肩を竦めて大鍋に近づいた。

「それにしても、久々にお前のメシが食えるなあ。ここの料理人たちはみんな優秀だが、作る物が整いすぎていて、飽きてくる」

 鍋の蓋を開け、嬉しそうに呟いたディノの後ろ姿。反発する気も失せて、レフは呆れ顔になってしまう。
 あまり知られていないが、これがディノの本当の姿だ。
 賢護五石をまとめ、ラスラリエを導き、同時にああやって、子供のような顔でシチュー鍋を覗き込むような男。

「一人で食い尽くすなよ、ディノ」

 釘を刺してやると、彼は渋い顔でレフを振り返った。

「こんな旨そうな物を前にか?難しいことを言う奴だな」
「リュイスに喚かれたかったら、好きなようにしろ」
「…確かに煩そうだ。仕方ない、早めに食いに来いと言っておけ」

 残っている保障はないが、と聞こえないような声で付け加えているディノに、レフは笑みを浮かべて頷いた。
 
 
 
 ベッドの上で身体を起こせるようになったウィルトの口元に、レフはせっせと匙(サジ)で食事を運んでやる。
 本当ならもう、自分で食べられるはずなのだ。腕の治療も終っているし、自分で身を起すことも出来る。
 しかし母親と離れているせいか、ウィルトは何かとレフに甘えたがった。
 用があってレフがそばを離れている時は、侍従や看護師たちに頼ることなく、落ち着いた様子なのに。レフが戻ってくると、途端に子供の顔で甘えるのだ。
 もちろんそれは、あと少しだと思って甘やかし放題のレフにも、問題があるだろう。

「旨いか?」
「うん」
「そうか。良かったな」

 食事時の面倒はずっと見てきたものの、レフが自分で作ったものを食べさせたのは、これが初めてだ。
 今までは頑張っていても、あまり食が進まない様子のウィルトだったのに。今日はきれいにシチューを平らげてしまった。