【Will x Leff A】 P:05


「よしよし、ちゃんと食べられたな」
「だって、すごく美味しかったから」
「じゃあ明日からも、頑張って食べなさい」

 私が作るから、と続けてやったら、彼は本当に嬉しそうな顔で笑っていた。

 控えの者に食器を片付けさせ、身体を拭いてやる。さっぱりしたウィルトを着替えさせたレフが「もう寝る時間だ」と言うと、彼は珍しく横になるのを嫌がった。

「どうした?」

 こんなことは、今までなかったのに。
 とくに叱るでもなく、首を傾げているレフの前で、少年は何かを躊躇っていた。
 ちらっとレフの顔を見つめ、視線を落として、またレフを見つめて。
彼が何がしたいのか、本格的にわからない。
 辺りを片付けていたレフは、手を止めて枕元のイスに腰を下ろした。

「本当に、どうしたというんだウィルト」
「あの…聞きたいことが、あって」
「なんだ?」
「うん…あのね」

 ようやくウィルトが話を始めようとしたとき、タイミング悪く部屋のドアが鳴った。レフは仕方なくウィルトの肩を叩いて、待っているよう促すと、扉を開けるために立ち上がる。
 扉の向こうにいたのは、ウィルトの父、ベルマン医師だ。

「ああ、お前だったのか」
「少しよろしいでしょうか?」
「もちろん」

 扉に手を掛けたまま、横に寄って部屋の中へ促した。しかしベルマンは中へ入ろうとせず、緩く首を振っている。

「ベルマン?」
「レフ様に、お話が」
「私に?
…なんだ今日に限って、お前まで。親子共々、神妙な顔をして…

 ウィルトといい父親のベルマンといい。しかしレフの言葉に答えず、扉の向こうでベルマンは視線を伏せ、メガネを少し押し上げている。
 何事なんだと問いかけようとしていたレフは、ベルマンの後ろに長身の男が立っているのを見つけた。

「リュイス?」
「ああ」
「なんだ、お前まで」
「私も同席する」
「同席って…」

 レフは首をかしげた。
 二人の深刻な表情を見ても、話の内容がさっぱりわからない。どうやら別室で話そうとしているのはわかるが、それにしても、こんなに歯切れの悪いリュイスを見たのは初めてだ。
 らしくない態度に困惑したまま、レフはウィルトを振り返った。

「悪いな、ウィル。お父さんと話があるから、先に寝ていなさい」
「…起きてる」

 よほど話したいことがあるのだろうか。これではいくら明日にしろと言っても、納得しそうにない。少し思案して、レフはウィルの元へ戻る。

「わかった。話が終われば戻って来よう。だが遅くなるかもしれないから、とにかく横になりなさい」
「…寝てたら、起してくれる?」
「そうだな…遅くならなかったらな」

 頷いたウィルトを寝かせ、布団を掛けてやる。優しく頭を撫でてやったレフは、何か言いたそうな少年の視線に見送られながら、部屋を出ていった。
 
 
 
 用意されていたのは、少し離れた談話室。
 レフの正面に、ベルマンとリュイスが並んで座っている。
 二人の深刻な表情を見れば、話の内容がただ事ではなことぐらい、察しはついていた。
 それでも……
ベルマンの口からは、レフが想像していたどんなものより最悪で、残酷な言葉が連なっていく。