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一人きりになった談話室で、レフの表情が苦しげに歪んだ。
己の葛藤を押さえ込むように、黙って虚空の一点を睨みつける。レフはしばらくの間、ただ強く唇を噛み締めていた。
どれくらい一人で、堂々巡りの考えに囚われていたのか。大きく息を吐いたレフは、ゆっくり立ち上がって、ウィルトの眠る部屋へ向かった。
静まり返った中の様子を窺い、音を立てないよう、そうっと扉を開ける。部屋の中央にあるベッドには、ウィルトが一人で横になっていた。
黙って近づいたレフを、幼い瞳が見上げている。ベルマンがどのように話して聞かせたのかはわからないが、さすがに寝付けなかっただろう。
「ウィルト…」
もうこの子は他の子供たちと同じように、街を、野原を、思い切り駆け回ることが出来ない。
何を言うべきか見つけられず、言葉を詰まらせているレフをじっと見つめて。アメリアによく似た面差しが、嬉しそうに微笑んだ。
「ちゃんと、戻ってきてくれた」
「…ああ。約束したからな」
「うん」
枕元の椅子に腰掛け、少年の髪を撫でてやる。彼は気持ち良さそうに目を閉じていた。
「お父さんはどうした?」
「ここのお医者さんと話してくるって、さっき」
「そうか」
何度も髪を撫で、レフは言うべき言葉を探し続ける。
話したいことならたくさんあった。
もう足のことは聞いたのか。ベルマンは何と言って語ったのか。
……お前は自分の身に降りかかった運命を、どう思っているのか。
でも、どれも口にするのが憚られて、言葉が出てこない。
どう思う、なんて。あまりに残酷な問いかけだ。そんなもの、辛いに決まっている。
ぎゅっと眉を寄せ、目を閉じていたレフは、頬に触れた温かさに気付いて、まぶたを上げた。
「ウィル?」
「…泣かないで。大丈夫だよ」
「あ…」
「おれは、大丈夫だから…泣かないで?」
小さな手が、懸命にレフを宥めようとしている。
絶望に泣くことすら出来ないレフは、涙を流してなどいなかったけど。それでもウィルトは苦しむレフを心配し、自分は大丈夫だから泣かなくていいと、繰り返すのだ。
思えばこの子は、初めて言葉を交わしたときから、ずっとレフを気遣ってくれている。
レフはたまらず、ウィルトの手を強く握り締めた。
「私のせいだ…お前を、こんな…っ。どうして私は、いつもいつも大切な者を救えない。強大な魔力を持っているというのに、何の役にも立たず、誰も…っ」
幼いウィルトに、かつてのアメリアの姿が重なって見えた。自分のせいで失われたものの大きさに、それ以上の言葉が出てこない。
振りかざされた剣。泣きながら自分に斬りつけようとしたアメリア。
望みどおりに切り裂かれ血を流しやれば、彼女が救われるんじゃないかなんて。自分が傲慢な勘違いをしたせいで、今はウィルトまで苦しめている。
小さな手を握り締めたまま顔を伏せるレフの耳に、溜め息のような呟きが落ちてきた。
「ああ、やっぱり。貴方は魔族なんだね…」
「…そうだ」
「貴方のことが、知りたくて。父さんに聞いたら、貴方に直接聞きなさいって、言われたんだ」
「ウィルト」