【Will x Leff A】 P:10


 
 
 
 今日は、雲ひとつない真っ青な快晴。
 天候を操る黄の賢護石だというのに、レフはそれを、リュイスに引きずられながら初めて知った。

「しつこいぞ、お前っ!」
「しつこいのはアンタだろ!とっとと歩けよ抱き上げるぞっ」

 本気だからな!と睨みつけられ、レフは渋々リュイスに腕を引かれて、引きずられるように歩いているのだ。

 ウィルトに会わないと誓ってから、ひと月以上が経とうとしていた。
 あの日以来レフは、一度もウィルトの元を訪れていない。父親であるベルマンにさえ、昨日まで会おうとしなかった。
 
 
 
 昨日、強引にレフの元を訪れたベルマンは、懸命にそっけない態度を取ろうとするレフをものともせず、ウィルトの様子を話してくれた。
 順調な回復をしていること。
 レフに会いたがっていること。
 それから、翌日にはウィルトを家へ連れて帰ることを。
 どうか見送りに来てくれと、懇願するベルマンに対し、レフは頑として首を縦に振らなかった。もう会わないと決めたのだ。自分が近づいた距離の分だけ、ウィルトが不幸になるようで怖かったのもある。
 しかし理由も告げずに撥ね付ける、冷たいレフの真意を知ってか知らずか、ベルマンは去り際にレフの腕を強く掴んだ。

 ―――貴方のせいでウィルトの運命が狂ったと思うのですか?確かにそうです。貴方という存在がなければ、あの子は生まれてくることすら出来なかったのだから。ウィルトの命は、貴方が与えたもの。…貴方は、ウィルトに正面から向き合うべきだ。
 
 
 
 レフはベルマンの言葉の意味を、一晩中考えていた。
 何もかも自分のせい。しかし彼は、ウィルトが生まれてきたことも、レフの存在があってこそだと言う。
 確かにそうだろう。自分とアメリアが愛し合い、別れて。彼女を心配した両親が、幼馴染みだったベルマンの元へ連れて行った。二人は再会し、レフのことを忘れたアメリアはベルマンを愛し、全てを知りながら彼はアメリアを受け入れてくれた。
 だからこそ、ウィルトが生まれたのだ。
 最初の地点に置き忘れられている自分は、そう考えれば不可欠な要素だったのかもしれない。
 ……詭弁だ、と笑って。
 でもそれは、紛れもない真実で。

 責められても、詰られても、ウィルトに会うべきなのだろう。全てが自分の罪だと思うのなら、なおのこと。
 しかし結局、レフが見たいのはあの子の笑顔だから。

 懸命に言葉を紡ぎ、息も絶え絶えに自分を見つめ、
気遣って心配してくれた。
 ラスラリエの守護者、最強の魔族である黄の賢護石を、自由に動けもしない子供がだ。
 それは……何度思い出しても、レフにとってあまりに愛しい時間だった。

 眠れもせずに朝を迎え、やはり見送りになんて行けないと首を振った。
 しかし、どんな様子でウィルトが王宮を去っていくのか、ひと目でいいから見ておきたい。
 葛藤の中、身動きが取れず私室に引き篭もっていたレフは、自分の意思に関係なく、問答無用でリュイスに引きずり出されてしまったのだ。

 勝手にレフの私室へ乗り込んできたリュイスは、レフの気持ちも迷いも、まったく意に介さない。