【Will x Leff C】 P:02


「ちょ、リュイス様!」
「お前に注意しても、埒が明かないのはよくわかった。だったら効く方法を取るまでだ」
「え…待って待って!ごめんなさいっ」

 リュイスの意図に気付いたウィルは、慌てて謝るのだが。残念ながら、間に合わなかった。

「もう遅い!いるか、レフッ」

 首筋を拘束されたまま、西館の厨房に引きずられる。もちろんウィルの目的地はここだったが、こんな訪れ方をするはずじゃなかったのに。
 作業台の前で振り返ったレフは、二人を見てあからさまにいやな顔をした。

「…何事だ」
「お前、もっとちゃんとコレを躾けろ!迷惑だっ」
「どうして私が躾けるんだ。ウィルにはちゃんと両親がいるだろ」
「のほほんとしたベルマン夫妻に、こんな悪ガキの躾が勤まるかっ」

 ぎゅうっと首を絞める腕に力が入る。さすがに息苦しくて暴れるウィルを、二人を追って厨房に入ってきたオーベリが救い出してくれた。

「大丈夫かい?」
「っ…はあ、だ、だいじょ、ぶ…です」

 礼を言いながらも咳き込んでしまう。
 涙を浮かべてレフを見れば、目が合った途端、ぷいっと背けられてしまった。

「ん?…なんだ。まだレフを落としてないのかウィル。情けないな」

 水を得た魚のように、リュイスがにやにや笑い出す。
 背の高い彼はプラチナグリーンの長い髪を揺らせ、そうっとレフの後ろに回ると、普段はそんなこと絶対しないくせに、緩くレフの身体に腕を回した。
 作業中だったレフが、不審そうに手を止めて顔を上げる。リュイスはわざとらしく、レフを自分の胸に寄りかからせた。

「まあ、ガキにくれてやるのは惜しいな」
「…何をしてるんだ、お前は」
「こんな抱き心地のいい身体。チビガキにはまだまだ落せないだろうな、って話」
「リュイス様っ!!」

 からかわれていることぐらい、わかっているはずなのに。ウィルはムキになって、レフの身体を奪い返した。
 あっさり手を離したリュイスの元から、レフの身体がウィルの方へ傾いでくる。
 でもまだ、今のウィルには支えきれない。
 慌てたレフは、何かを捏ねていたせいで汚れている手を、作業台に縋らせた。そのままウィルを振り返って、粉だらけの手で思いっきり頭をはたいたのだ。

「リュイスに乗せられるなっ」
「痛い…」
「お前なんかいくら勉強が出来たって、どうしようもないガキだ!」
「…しょうがないだろ。ほんとにガキなんだから」
「言い訳するな、見苦しい!だからお前はいつまでも子供なんだっ」
「子供でも貴方が好きなんだよ!リュイス様にあんな風にされて、黙って見てられるわけないだろっ」
「からかわれていることぐらい、気づけ!」
「わかっててもイヤなものはイヤなんだっ」

 大喧嘩を始めた二人を見て、リュイスは声を上げて笑い出す。

「あははは!ああ、すっきりした」

 十五・六歳にしか見えないレフと、九歳の割には大人びて見えるウィル。
 リュイスから見た二人の様子は現状、
微笑ましい痴話喧嘩でしかない。しかしそれを言ったら、自分まで粉だらけにされてしまいそうだ。

「リュイスッ!」
「そういうわけだから、レフ。惚れられた強みでその悪ガキを、何とかしてくれ」
「知るかっ」
「さて。それ、今日の茶菓子だろ?出来るまでどれくらいかかるんだ?」