【Will x Leff C】 P:08


「ってことは、初めて会った頃のお前と、あんまり変わらないのか」
「そうなりますね」
「…お前、ひねてたなあ…」
「貴方にだけは言われたくありません」

 笑いあう二人の入り込めない雰囲気に、アルムはいっそう拗ねた顔になって、クリスに身体を押し付けた。

「アルム、話は何度かしているけど、会うのは初めてだろう?私の友人、ウィルト・ベルマンだ。ご挨拶して」
「なんでっ?ぼくの方がえらいのに!」
「偉くなんかないよ。君は第二王子だけど、ウィルより年下だ。それに彼は、もう五つも年上の人たちと一緒に学べるくらい、勉強が出来るんだよ」
「兄上…」

 叱られたと思ったのか、アルムの顔が泣きそうに歪んでいく。笑いを噛み殺して二人の様子を見ていたウィルは、そうだった、と口を開いた。

「言い忘れてた。オレ、来月からまた違う教室へ行くらしい」
「そうなんですか?」
「みたいだな。こないだ試験受けさせられたから、そんな気はしてたんだ」

 ラスラリエの学校では、年齢よりも学力を優先させる。
 ひとつの学年に違う年齢の子供がいるのもよくある話だ。もちろん、ほとんどの子供は同い年の者と一緒に学ぶのだが。
 ウィルは普通、七歳から通う学校に四歳で入った。
 大怪我をしてしばらく休んでいたにもかかわらず、九歳になったばかりの今、周囲は十四歳。来月からはもうひとつ飛んで、十六歳の子供たちと一緒に、学ぶことになるようだ。

 淡々と語るウィルは、自分のことなのにまるで他人事。
 普段から勉強は自分でするものだと、しょっちゅう口にしているウィル。彼にとっては何歳の教室で学ぶかなど、どうでもいいことらしい。
 興味がない様子のウィルよりも、むしろクリスの方が、嬉しそうな顔になった。

「相変わらず素晴らしいですね!ご両親もさぞかしお喜びのことでしょう。おめでとうございます」
「あんまり、めでたくもないんだけどな。教科書は変わるし、学校は遠くなるし」
「またそんな」
「父さんたちもすっかり慣れてて、良かったな〜って、言うだけだよ。大体オレはお前を見てるから、全然自分が勉強できるなんて思えない」
「それは買い被りですよ、ウィル」

 首を横に振っているクリスがだが、もし彼が学校に通うような立場だったら、自分などすぐ追い抜かれるに違いないと、ウィルは思っている。

 同世代の通う学校などへは行かず、分野によってそれぞれの専門家を招き教わっている、皇太子殿下。何度か同席したこともあるのだか、その内容は学校で学ぶような範囲を超えているだけに、興味深く難しかった。
 クリスはとにかく理解が早い。
 熱心なのはもちろん、専門家が答えに窮するような質問をすることも、日常茶飯事だ。
 これが次代のラスラリエを担う皇太子殿下なのだと思うと、ウィルはいち国民として頼もしくもあり、喜ばしいとも思う。だからこそもう少し、自分の身体も労わってくれるといいのだが。

 二人が学校の話に没頭しかけると、アルムがもそもそ起きて、クリスの膝に乗りあがった。

「兄上っ!ぼくとお話、してたでしょっ」
「君がウィルにちゃんと、ご挨拶出来ないからだろう?」
「だって…」

 よほど兄が大好きなのだろう。クリスと仲のいいウィルを、どうしても認めたくないらしい。