二人とも、なぜか経緯を話したがらないので、詳しい出会いを知らないのだが。彼らの親交が始まってから、レフはやりにくくてしょうがない。
昔のように毎日ではなくなったものの、やはりしょっちゅう自分の元を訪れているウィルト。
以前は忙しいという一言で諦めさせることが出来ていたのに、クリスという味方を得て以来、ウィルトはことあるごとに皇太子を引っ張り出すのだ。
ウィルトのことは追い返せても、さすがにクリスを拒絶することは出来ない。
忙しいと帰らせたら、数時間後には必ずと言っていいほど、クリスから会談の要請が入る。出向けば当然の顔をしたウィルトが、自分を待っているのだ。
どういうわけかクリスは、この件に関して全面的に、ウィルトの味方をするつもりのようで。
「クリス…それが土産か?」
不機嫌さを隠そうともせず問いかけるレフに、ウィルトの方が抱えているものを少し持ち上げて「オレは運搬係だよ」と応えた。
「土産があるのはホント。これを、ね。黄の賢護石レフ様にって、預かった」
この一年で見違えるほど背の伸びたウィルトだが、それでもまだレフよりは少し低い。
小さな身体が重そうに寄越してきたのは、彼の腕で一抱えもある何かの瓶(ビン)だ。
「なんだこれ?」
「レフはたぶん、知ってると思うんだけど」
ウィルトが口にしたのは、確かにレフも知っている果実の名前。王都よりもっと南の地方で採れる、酸味の強い緑色のくだもの。
「それで作ったジャムだよ。父さんところの患者さんで、南の出身の人がいて。親戚からたくさん届いたんだってさ」
「それをどうして、お前が」
「オレがしょっちゅうレフに会いに来てるって、どこかで聞いたらしくて。その人に是非お届けしてくれって、頼まれたんだ。おかみさんの手作りだから、正式に献上することは出来ないだろ」
賢護石に献上するとなれば、いくつかの審査を通さなければならない。確かにウィルトに頼む方が早いだろう。
仕方なく受け取ったレフは、その重さに驚いた。
「…お前が持ってきたのか?」
「あのさあ。そう『お前がお前が』って、嫌そうに言わなくてもいいんじゃないの?誰が持ってきたって、コレに詰め込まれたレフに対する感謝の気持ちは、変わんないだろ」
呆れた顔で肩を竦めている。
そういう意味じゃない、と。言おうとしたはずなのに。レフはつい口を噤んでしまう。
こんな重たいもの、ウィルトの小さな身体で、しかも右足がうまく動かせないのに。どんなに大変だったろうと思ったのだ。
ただ気軽に労ってやれるほど、レフはウィルトに対して素直ではないから。
「…誰かに運んでもらえばいいものを」
そんな風にしか言えないレフをどう思ったのか、ウィルトはにやりと笑った。
「人に頼んだら、オレがレフの昼メシにありつけなくなるじゃん」
「まったくお前は…」
ごとん、と調理台に瓶を置いて、油紙の封を外してみる。とたんに辺りには爽やかな甘い香りが広がった。
「今年は近年稀にみる豊作だったらしいよ。レフ様のお陰ですって言ってた」
「私は何もしていない。慣例どおり、降雨量を減らしただけだ」
「だからそれが、レフのお陰なんだろ」