【Will x Leff D】 P:04


「レフも知ってるんだろ?作り方」
「…ああ」
「やっぱり。母さんにこんな珍しい果物のケーキ、なんで作り方知ってんの?って聞いたら、覚えてないって言うからさ。
絶対レフに教えてもらったんだって、思ったんだ

 ふっと口元に滲む、複雑な笑み。どことなく大人っぽくて、何かを諦めたような。大きなことを乗り越えたみたいな表情。
 レフの脳裏を、小さなウィルトの姿がよぎる。大怪我の治療を終え、この王宮を去るときも、彼は子供らしくないこんな笑みを浮かべていた。

 昔はレフが過去を振り返るたび、
アメリアと自分は違うのだと言って、反発したり拗ねたりしていたのに。もう彼は折り合いをつけてしまったのだろうか。
 なんだか自分だけが置いていかれたみたいな気がして、レフはふと視線を落としてしまう。

「レフもそのケーキ、作れるの?」

 ウィルトの手を逃れ、レフの方へ駆け寄ってきたアルムが、嬉しそうに見上げている。レフは何も言わず、先に材料を確認した。

「なあ、レフってば」

 追いかけてきたアルムに服を掴まれて、少し眉を顰める。

「ちょっと待て。作り方は知っているが…残念ながら香草が足りないようだな」
「こうそう?」
「ああ。
この果実を多く使うと、酸味と共に苦みが強くなる。それを抑えるために…」
「これが、必要なんだろ?」

 どこから取り出したのか、すぐ後ろまで来ていたウィルトが、皮袋を差し出している。目を丸くしたレフが中を覗くと、確かに目当ての香草が入っていた。

「どうしたんだ、これ」
「どうしたって買ってきたんだよ。常備するようなものじゃないしね」

 あっさり言って皮袋をレフの手に握らせ、クリスの方へ戻っていく。レフは驚きを隠せずに、ウィルトの後ろ姿と皮袋を、交互に見つめていた。

「ケーキの話をしたら、絶対にアルムが食べたい食べたいって、騒ぎ立てると思ってたんだ」

 ウィルトが肩を竦めて言うと、クリスも可笑しそうに「そうですね」と答えた。

「だよな?やっぱり思った通りになったし。こんなの明日ショアに雨が降るかどうかより明らかだ」

 からかわれたアルムが、ぶつかる勢いでウィルトに駆け寄っていく。いくら幼いアルムでも、足の悪いウィルトとまともにぶつかれば、転倒してしまうだろう。
 レフは慌てて手を伸ばし、アルムを捕まえようとしたが、間に合わない。
 危ない!と思わず顔を顰めたレフの前で、ウィルトはよろめくこともなく、しっかりアルムの身体を受け止めていた。
 ほっと安堵の息を吐く。
 そして同時に、いつの間にウィルトはこんな、しっかりした体つきになったんだろうと。あまりにも今さらな疑問を持った。

「おれ、騒いだりしてないぞっ」
「皇太子サマ〜弟王子がウソついてます〜」
「ウソなんかついてないっ!おれはレフも作れるのかって聞いたけど、うるさくしてなかったもん!」
「うるさいじゃん、いま」
「だってそれはウィルが!」
「何でもかんでもオレのせいにすんな〜」
「なんだよウィル、意地悪だぞっ!」

 ぎゃあぎゃあと煩くじゃれ合う、アルムとウィルト。それを困った顔で、しかし嬉しそうに見つめながら笑っているクリス。
 こうして比較対象があると、ウィルトの成長が余計に明らかだ。