【Will x Leff D】 P:05


 まだ自分よりは小柄だが、同い年のクリスに比べるとずいぶん逞しく見える。さらに二つ下のアルムが並ぶと、まるで大人と子供のようにさえ見えた。

 レフが観察している前で、子供たちのじゃれ合いはまだまだ続いている。
 侍従局長である青の賢護石ジャンが、渋い顔で言っていたのを思い出した。アルムが急に自分のことを「おれ」と呼び出したのは、ウィルトの悪影響ではないかと。
 王族らしからぬ荒っぽい口調は、レフも気になっていたことだ。
 アルムのそばでそんな言葉遣いをするのは、緑の賢護石リュイスくらいだと思っていたのだが……こうして見ていると確かに、アルムはウィルトの真似をしているらしい。

「素直じゃねえなあ、このガキは」
「ガキっていうなっ」
「おーおー、どうよこの態度。食べたいんだったら、素直に食べさせてくださいって言えば?」
「そんなの言わなくたって食べるもんっ!おれは弟王子なんだからなっ」
「なんだそれ?全然関係ねえだろ。クリスは素直な方が好きだと思うんだけどなー。なあお兄様?」

 いきなり話を振られたクリスは驚いた顔をしたが、何か思うことでもあるのか、少し渋い顔で「そうですね」と頷いた。
 まるで自分の言動を全否定されたかのように、アルムは急にしゅんとしてしまう。

「兄上…」
「ちゃんとレフにお願いしておいで。あのジャムはレフがいただいたもので、君のものじゃないんだよ」
「だって国のものは父上のものだって、みんな言うのに」
「違うよ、アルム。国王陛下はラスラリエのものだけど、ラスラリエはけして陛下のものなんかじゃない。順番を取り違えてはいけないんだ」

 やけに深刻な話を始めたクリスを、アルムは戸惑った顔で見つめている。

「違うの?」
「全然違う。国家元首っていうのは、国民のためにあるべきものだ。たとえ陛下の息子だとしても、君は自分の手の中にあるものを、けして当たり前だなんて思ってはいけない」

 難しくて、意味がよくわからなくて。アルムにしてみれば、叱られたと思ったのだろう。曲線的な幼い顔が、泣きそうに歪んでしまう。それを見たクリスの表情に、焦りが浮かんだ。
 すっと間に入ったウィルトは、さっきまでの問答が嘘のように、優しくアルムの頭を撫でてやっている。

「いきなり難しい話を始めんなよ。
びっくりしてるだろ
「ウィル…ですが」
「間違ってるって言ってんじゃない。食事の前に、ややこしい話をすんなって言ってんだ。
せっかくのメシが不味くなる

 そう言いながらウィルトは膝を折り、顔をくしゃくしゃにしているアルムと視線を合わせた。

「いいか?あの果物を作った農家の人は、たくさん採れてとても喜んでる。果物がどれくらい採れるかは、天気次第なんだ。ラスラリエの天気はレフが管理してる。だから農家の人たちは、とてもレフに感謝してる。ここまではわかるな?」
「…うん」
「でも農家に人たちが王都へ来て、レフに直接ありがとうって言うことは、なかなか出来ない。出来ないから、そういう気持ちを一杯詰め込んで、あのジャムをレフに届けて欲しいとオレに頼んだ」
「うん」
「じゃあ、あのジャムは誰のものだ?」
「…レフのもの」
「よく出来ました」
「ウィル…じゃあおれは、ケーキを食べちゃいけないの?」