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「それも含めて、オレの存在が」
「…焼けるまで時間がかかる。アルムを連れて庭にでも出ていろ」
「冷たいなあ。こう…さ。オレの行動全てが、貴方に対する好意の表れだとか思って、感動したりしないわけ?」
「片付いたら厨房から出て行け。邪魔だ」
「ほんと、つれない」
言葉のわりには堪えた様子もなく、ウィルトはくすくす笑ってレフの腕を掴む。振り払おうとしたのに、ぐっと強く引かれ顔を覗きこまれた。
間近に迫ったウィルトのにこやかな瞳が、不機嫌そうなレフを映している。
「好きだよ」
「もう聞き飽きた」
「いいね、それ。オレの言葉に慣れて、溺れて、当然のものだって思えばいい。オレの心は全部レフのものなんだから」
「…お前、そういうセリフはどこで覚えてくるんだ?」
「誰かの言葉じゃないよ。レフを見つめてるだけで、オレの中から溢れてくるんだ」
笑みに滲んでいた不確かな想いが、急に真剣みを帯びてレフを包み込む。しかしレフは少しも揺らぐことなく、いっそう眉を寄せてウィルトを押しやった。
「子供の戯言に付き合ってやるほど、ヒマじゃない」
「…残念」
寂しげに口元を緩めて、思いのほかあっさりと身を引く。やれやれと肩を竦めながら、ウィルトは控えの間に歩き出した。
「じゃあ向こうで待ってる」
「庭に出ていろと言っただろ」
「クリスの熱が引いて、まだ十日も経ってないよ」
振り返らず、食事を摂っていた隣室へ引き上げていく。すぐに向こうから、アルムのはしゃぐ声が聞こえてきた。
レフはしばらく一人きりの厨房で、何も言わずにウィルトの消えた方を見つめていた。
ヒトでいうなら十五・六の年齢で容姿の成長が止まっているレフ。当然だが大人の料理人たちに合わせて造られている厨房は、何かとレフのサイズに合わない。
いつも踏み台に使っている小さなイスを移動させ、頭上の棚を空けようとしたレフは、ふと調理台の上に目的のガラス瓶が置いてあるのに気づいた。
「…余計なことを」
考えるまでもない。ウィルトが気を利かせて、先に取り出しておいてくれたのだろう。
自分だって踏み台を使わなければ、棚を開けられないくせに。いつの間に出したんだろうと思いながら、それを手にとってじっと眺めていた。
相手の負担にならない、細やかな気遣い。簡単なようでいて、とても難しいことだ。しかしウィルトはいつの間にか、自然とそれを出来るようになっている。
クリスがまた高熱を出したのは、確かに十日ほど前のことだった。さっきは元気な笑顔を見せていたし、食事もちゃんと摂れていたから、つい忘れていた。
病弱なクリスが寝込むのは、あまりにも日常茶飯事のことだから。
―――あの子が最近、あまり顔を見せなかったのは、そのせいだったか…
ウィルトは今でも、三日と空けずに自分の元を訪れる。それが滞る理由は、たいていクリスが寝込んだとき。
相手をしたくないレフにとって、ありがたいことなのだが……確かに二人の王子は、ウィルトに依存しがちなのかもしれない。
ウィルトの生意気な口調を真似るアルム。
ウィルトの言うことしか聞かないクリス。
本人は大して気にしていないのかもしれないが、王宮にはそういう存在を疎む連中も多い。