「うまいだろう?坊主。ここまで味にこだわる店は少ないが、ウチのは特別なんだ。木の実を炒ってから練りこむからな。どうだひとつ、買っていかんか」
迷っている様子のアルムを見て、ウィルはにやりと笑った。横から手を伸ばし、星型の菓子が詰まった袋をひとつ取り上げる。
「これなんかどうだ?」
「う…ん」
「こういうギザギザしたの、珍しいよなあ?オヤジ」
「ああ、その形はウチだけだ。オススメだよ」
迷う表情のアルムは、ウィルの思惑にも気付かず、うっかり本音を口にしてしまう。
「…でもそういう尖った形、兄上には似合わないと思うし…」
言ってから、しまったという顔になって。アルムはおそるおそるウィルを見上げた。
これ以上なく意地悪な顔でにやついているウィル。その影では、レフが呆れたような、驚いたような顔をしている。
アルムの頬がみるみる赤くなった。
「ち、ちがっ」
「まあな〜。アイツっぽくはね〜な〜」
「違うってば!だからっ」
真っ赤になって反論するアルムを、店主が訝しげに見つめていた。
「…兄上?兄ちゃんのことか?坊主、えらく高尚な口利きだな」
「あだ名だよ、あだ名。オレの友達が、そういうあだ名で呼ばれてんの」
「ああ、なんじゃ。あだ名か」
これくらいのボロが出ることは、予想済みだ。
雑踏に紛れているから目立たないが、そのつもりでアルムを見れば、庶民とは比べ物にならない気品を備えているのがわかる。
いくらワガママ王子でも、やっぱりアルムはクリスの弟なのだから。
「また来るよ。悪いね」
店主の老人に断り、ウィルはアルムの背中を押して歩き出した。
ちらりと隣に視線を向ける。まだ少し顔を赤くしたまま、アルムは俯きがちに言い訳を考えているようだ。
思わず溜め息を吐いた。
ウィルがこのことに気付いたのは、どれくらい前だったか。
昔からクリスが大好きなのに、アルムはけしてクリスの真似をしようとせず、なぜかウィルの言動を真似ようとする。理由はわからなかったが、もちろん悪い気はしなかった。
一人っ子のウィルにとって、アルムは弟同然の存在。アルムがまだ、あまり分別のついていなかった頃から知っているので、彼が成長する中、変わろうと努力している時に、自分が少しでも彼の指針になっているのかもしれないと思うと、正直嬉しかった。
でもだんだん、どうしてクリスではなく自分の真似をするのだろうと思うようになって。王族らしからぬ王子になっていくアルムに、危機感のようなものを感じ始めたとき。
ふと、その様子を目にしたのだ。
少し離れた場所にいたクリスが、体調でも悪かったのか思わず立ち止まり、ふらついた。
ウィルは右足のせいで駆け寄ってやることも出来ず、しまったと顔を歪めた。
その時、まだ支えられるはずもないのに、クリスのすぐ側にいた小さなアルムが、兄の身体に手を回したのだ。
―――無理しなくていいから…休んで。
幼いアルムではやっぱり支えきれなくて、クリスはなんとか自分で身を立て直したのだけど。それはまるで、自分を見ているような光景だった。