ああいうとき、もしウィルが隣を歩いていたら、きっと同じようにする。
クリスの背中に手を回し、身体を支えてやって。同じように「無理するな、少し休め」と言うだろう。いつも自分は、そうやってクリスを庇ってきた。
アルムはけして、兄のようになりたいわけじゃない。
隣に立ち、兄を支え、彼を庇って気遣う存在になりたいと思っている。だから、真似る相手はクリスではなく、自分だったのだ。
その時のことがきっかけで、気にして見ているうちに気付いた。どうやらアルムは、自分とクリスの友情まで、勝手に巻き込んでしまっているようだけど。
少年が抱いているのは、淡い淡い、恋に似た感情なのだ。
立場を考えれば許されるはずもなく、公になればクリスを窮地に追い込むような。そんな気持ち。
ちらっとレフを振り返った。彼にもわかってしまったのだろう。憮然とした表情で、アルムの背中を見つめている。
ウィルは肩を竦めた。
―――深刻に考えなくても、いいと思うんだけどね…今のところ。
アルムには悪いが、彼の気持ちはおそらく、一過性のものだ。
大体この祭だって、いまや完全に社交辞令化している。家族間で贈り合ったり、友人同士で贈り合うのも、普通の事。
幼いアルムはきっと、初めて知ったお遊びに興じてみたいだけだろうから。
「それじゃあまあ、お前の兄さんが気に入りそうなもの、探しますか」
「ウィル…」
「どうせあいつ、山のように貰うから。ちょっとでも目立たないと、お前から貰ったって、忘れるかもしれないしな」
「え…ええっ?!」
目を見開いたアルムに、ウィルは意地悪な表情で笑う。
「なんだ知らねえのか?毎年この祭の時は、王宮中の女の子達が、あいつに木の実の菓子持ってくるんだぞ。それこそ食いきれねえくらい」
「知らない…ほんとに?」
「ほんと。だからオレ、自分は毎年、貰わないことにしてる」
「なんで?」
「明日っから王宮行くたび、食うのを手伝ってくれって言われるから。もう毎年の恒例行事」
「そ…なん、だ…」
「去年まではお前に見せると、際限なく食いそうだからって、控えてたみたいだけど。お前もだいぶデカくなったし、今年は手伝って欲しいって言われるんじゃねえの?」
「…俺、もらったことない」
「人気ねえなあ、弟は」
「べつに!そんなの、いらないもんっ」
強く言って、アルムは唇を尖らせる。
まだまだ子供っぽい様子を見せるアルムに、心が和む気がしたウィルは、レフの気持ちが少し、わかるような気がした。
とにかく自分を子供扱いしようと、躍起なっていた頃のレフを覚えているから。
腹が立って、ウィルはなおさら大人っぽく振舞おうと努力したのだ。でもこうしてアルムを見ていると、レフの感じた不安が、わかるように思う。
しかし……それは、つまり。
逆説的に言えば、ウィルの本気が伝わっていたということ、かもしれない。
むすっとしたアルムが歩き出した。露店に並ぶ菓子に視線を注いでいるものの、一向に足を止めようとしない。
「おい…お前、どこまで行く気?」
「端まで」
「はあ?!何軒あると思ってんだ!」
「何軒でも見る!全部見て、一番いいのを買うんだからっ」