【Will x Leff F】 P:06


 何を言っても聞かない顔だ。頑固なところだけは、クリスにそっくりなのを知っている。

 ―――迂闊だった…。

 あれでもアルムは、クリスの弟。一旦こうと決めたら、突き進むのみ。
 思わず足を止めて、がっくり肩を落としたウィルの隣で、レフが溜め息を吐いた。

「…ごめん」
「粗忽者。一日終らんぞ」

 ずかずか歩くアルムを追いながら、二人はしばらく並んで歩いていた。
 ウィルはそっと、隣人を窺う。
 フードの下から覗いている、濃い金色のきれいな髪。本当は二人で、このお祭騒ぎを見て回りたかったのだ。
 並んで歩いていたウィルは、ずっと気になっていたことを聞いてみた。

「貴方は作らないの?」
「何を」
「木の実の菓子。そういえば毎年、作らないよね」
「ああ。別に必要ないだろう?私が作らなくても、明日は同じ菓子が溢れて大騒動だ」
「まあ…そうなんだけどさ。残念だな」
「何が」
「貴方が作ってくれるって言うなら、オレはいくらクリスに泣きつかれたって、他の人が作ったのなんか、一切口にしないのに」

 どういう意味だ?とでもいうように、レフが顔を上げる。その拍子に、肩が触れた。
 ほんとうに今、ちょうどウィルとレフの身長は同じくらいなのだ。レフがそれを気にしていると、知ってか知らずか……ウィルは人混みに紛れて、そうっとレフの腰に手を回し、細い身体を引き寄せた。

「何をしているっ」
「迷子にならないように、と思って」
「誰がっ」
「オレが。オレが迷子にならないよう、レフにくっついてんの。可愛いだろ?」

 くすくす笑いながら囁いて、そろりとレフの身体を撫でる。

「ウィル!」
「騒ぐと目立つよ」
「っ…!」
「そうそう、おとなしくしてて。こんなとこで、何もしないからさ」
「当たり前だ馬鹿」
「…ほんとは貴方と二人で来たかったんだ」
「あの子の事でもなければ、こんなところへ来るわけないだろ」
「そっか…ま、必要ないけどね。オレには記憶を取り戻すための菓子なんて」
「………」
「たとえ何をされたって、貴方を忘れたりしないし」
「………」
「覚えてる?昔、オレの言ったこと。…自分の弱に負けたりしない。どんな悲しい思いをしても、貴方を責めたりしない」

 幼い頃の誓いをもう一度唇に乗せ、ウィルは顔を近づけて、レフの耳元に熱っぽく囁いた。

「貴方が好きだよ。それだけは、ずっと変わらない」
「ウィル」
「何があっても、自分の気持ちを忘れたりしない。こんな木の実の菓子なんか、オレには必要ないんだ…貴方を忘れたりしないから」

 母アメリアとは違う。彼女はウィルにとって大好きな母だけど、レフを徹底的に傷つけたことだけは、許せない。
 浮かされたように囁き続けるウィルの身体を、レフが強い力で押しやった。

「…お前は何も、わかってない」
「そうかな。わかってないのは、レフの方じゃない?」
「どういう意味だ」
「貴方はまた、オレの言葉を子供の戯れ言にする気なんだろう?この想いを、ガキの思い込みにしておきたいんだ。ちゃんと考えるのが怖いから」
「ウィルト!」