何者かはわからないが、アルムを攫おうとした男たちは、全員レフのおかげで気を失っている。怯えた顔で近づいてきたアルムは、真っ赤に染まったレフの身体を見て、恐怖のせいか立ちすくんでいた。
騒ぎに人が集まってくる。
このままではまずい。しかし、まずはレフの手当てが先だ。
「くそ…っ、じっとしてる場合か!」
自分を叱咤して、服を引き裂きレフの傷口に当てた。そんな深い傷には見えなかったのに、どんな強い力で押さえても、溢れ出す血が止まらない。
子供の手では力が足りないのか?応急処置としては、間違っていないはずなのに!
「むだ、だ」
「レフ!」
「けんご、せきの…からだ、は」
「無理に喋るな!!」
滴るほどの血に濡れて、使い物にならなくなった布を放り出し、ウィルは使える物を探す。必死に傷口を押さえつける手に、冷たい物が触れた。
あまりの冷たさに、ぎょっとした。
氷のように冷たいそれは……レフの指先。
「レ…フ?」
「無駄、なんだ」
「何を言って…」
「賢護石の治療は…緑の、賢護石しか、できない…」
「っ!」
「お前、が…悪いんじゃ、ない…あきらめ、なさ…い」
「バカなこと言うなっ!」
諦められるはずがない。何か方法があるはずだ。
顔を上げたウィルは、自分たちを遠巻きに取り囲む人々の中に、見知った男の姿を見つけた。
「おじさんっ!」
「ウィル?…やっぱり、ウィルトか」
「おじさん手を貸して!」
「あ、ああ。わかった」
慌てて進み出てくれた男にレフの身体を任せ、ウィルはアルムを引き寄せる。
「怪我はないな?」
「俺は平気…でも、レフが…レフが死んじゃう…」
「死なせるかよ!おじさん、ここからだとシーサイドエンドの方が近い。いつも父さんが診療に使ってる場所、知ってる?」
「大丈夫だ」
「あまり揺らさないよう、そこまで運んで」
「おう、任せろ」
ここでレフやアルムの身分を明かすわけには行かない。倒れている男たちが何者なのかわからないが、アルムを傷つけようとしたのは事実だ。
ざわざわと取り囲んでいる人々に背を向けた。自分が肩から掛けていた布を、アルムに頭から被らせる。
「いいか、身分を悟られるな」
「う、うんっ」
ウィルは力強くアルムの手を引いた。
ここからシーサイドエンドまでは、ウィルの足でも五分とかからない。
何も出来ない状況に唇を噛みしめる。
動かない右足を引きずり、レフの容態に気を配りながら、懸命に前へ前へと急いだ。