【Will x Leff F】 P:11


「ああ。この治療には、リュイス様のお力が絶対に必要なんだ。…無茶を言ってるのはわかってる。でもこのシーサイドエンドに、お前以上に根性が座ってて、信用できる奴はいない」
「ウィル…」
「頼む、エリク」

 深く頭を下げるウィルの肩を、エリクはぽんと軽く叩いた。

「オレに気遣いなんかいらねえよ。任せろ」
「エリク…。悪い、頼んだ」
「おう」

 力強く頷く友人に頷き返し、ウィルは膝を折ってアルムの目を見つめた。
 目の周りが真っ赤だ。ウィルがレフの治療にあたっている間、さんざん泣いていたのだろう。自分が襲われ、そのせいでレフが傷を負ったのだ。ショックが大きくて当然だ。
 レフの血を服で拭ったウィルは、アルムの小さな手を強く掴んだ。

「アルム」
「ウィル…レフが…」
「わかってる。オレがなんとか食い止める。だからお前はリュイス様に、この状況を伝えてくれ」
「リュイスに、俺が…?」

 可哀相だと思う。残酷なことをしている自覚もある。
 本当なら抱きしめて、頭を撫でて、慰めてやりたいけど。今はとにかく、時間がない。

「このエリクが、お前を王宮まで連れて行ってくれる。なんとしてでもリュイス様をここへ寄越すんだ。出来るか?」
「…うん」
「よし。いいか、リュイス様に伝えるだけだぞ。シーサイドエンドの診療所と伝えれば、誰かがここへ案内してくれるはずだ。リュイス様がこっちへ向かったのがわかったら、クリスと話してエリクを助けてくれ」
「わ、わかった」

 小さく頷いたものの、不安そうなアルムはレフのいる診察台から目を離さない。ウィルはその視線を遮るように、ぎゅっとアルムを抱きしめた。

「心配するな。レフは助かる」
「ウィル…」
「エリクはオレの友達だ。クリスの次に頼りになる友達。お前だってそうだ、アルム。クリスの弟なんだから。ちゃんと出来るさ」
「うん…うんっ!俺、絶対リュイスを呼んでくるから!」
「ああ、頼む」

 腕を緩めると、アルムは青ざめた顔で、しかし力強く頷いた。
 自分からウィルを離れ、エリクの手をぎゅっと掴む。

「行こう、エリク」
「おう。…お前も頑張れよウィル」
「任せろ」

 二人を送り出し、ウィルはレフの前に立った。見守っている人々の中には、父の助手をしている男がいる。彼に手術の用意を頼んで、もう一度状況を確認した。
 レフは賢護石だ。常人には耐えられるはずのない状況でも、彼の生命力なら持ちこたえてくれるはず。
 だから問題は、時間だ。
 リュイスがいつ到着するのか。
 そして、それまで自分の体力がもつか。

 ―――持ち堪えるさ。腕が動かなくなったって、やってやる。

「ウィルト君、準備できたよ」
「ありがとうございます。…今からこの傷口を、片っ端から縫い続けます」
「縫い…続ける?」
「そうです。傷がどんどん広がっている。オレに出来るのは、少しでもその進行を遅らせることだけ」
「し、しかし」
「中もやられてると思う。表の傷と、内臓や血管と。処置は同時に行います」
「そ、そんな無茶な。君はまだ医学生だし、ここには君以外に手術を出来る人間なんて…」