ぼろぼろに泣きながら叫ぶ、クリスの顔が歪んでいく。
愛しい人の悲鳴に、心は痛んだけど。それよりも、華奢な身体が誘う言葉に、アルムの欲望は抑えようもなく暴走した。
強く腰を引きつけ、思うさま叩きつける。
細身の身体が自分に振り回され、痛みすら悦楽に変えて喘ぐのを見ていると、今まで知らずにいた欲情が溢れて止まらなかった。
眩しく見つめるばかりだった清廉な兄の白い肌が、淫らに色づき染まっていく。
汗と涙でぐちゃぐちゃになった顔は、それでも誰より美しかった。
激しい性交に元々病弱な兄は、とうとう気を失ってしまったけど。
青ざめた肌を抱きしめ、アルムは一晩中、何度も何度も愛していると囁いていた。
わかっている。これは、許されない恋だ。
でもクリスが許してくれた。
だったらもう、他には何もいらない。
「クリス…」
囁いて口付けると、クリスの身体が僅かに震えた。何度か瞬きをして、ぼうっとした瞳がアルムを見上げている。
「…アルム」
「おはよう、クリス」
「…もう夜は、明けたのか…」
「いや、まだ外は暗いよ。…もう少し眠ったら?ちゃんと起してあげるから」
ずっとこんな風に、彼に囁いてみたかったのだ。
まだ身体に燻っていた熱に任せ、白い肌にゆっくり手を滑らせる。やんわりと腰を引き寄せようとしていたアルムは、その手を強い力で引き離された。
「クリス?」
「駄目だ」
「どうして?俺…」
「やめなさい…もう、行くんだ」
溜め息を吐きながら身を起したクリスのつれない態度に、アルムが眉を寄せて拗ねた表情になる。それを見たクリスは、ふっと悲しげな色を口元に浮かべた。
「人に知られるわけにはいかないんだ。わかっているだろう?」
「ああ」
「だったら、今のうちに部屋へ戻りなさい」
「クリス」
「そんな風に私を呼んではいけない」
「でも…わかってるけど」
不満も露に答えると、クリスはアルムの額に口付けてくれた。しかしそれは、まるで子供をあやすようなキスだ。
昨日はあんなに激しく、自分を求めてきたのに。苛立たしさから顔を背けたアルムの頬に、冷たい指先が触れた。
「お前は、一夜の戯れに私を手に入れたら、それで満足なのか?」
「違う!俺は…っ」
あまりに酷い言い様だ。思わずぎゅっとクリスの手を掴んだアルムは、ようやく兄の辛そうな表情を見て、はっと息を飲む。
「クリ、ス」
「…まだ終りにしたくないと、お前が少しでもそう思ってくれるなら…どうか今は、聞き分けて」
「………」
「誰にも知られるわけにはいかない…知られたら、全ては終わりなんだよ…?」
切ない声で懇願するクリスの言葉には、まだ終わらせたくないという、彼の想いが見え隠れしているように聞こえた。
間違っているのは、わかっている。
自分だけではなくもちろん、クリスにも。
いや、いっそ兄の方がこの関係が長く続かないことに、憂いを感じているのかもしれない。