【Will x Leff L】 P:06


 まるでアルムが強引に押し切ってしまったような、昨夜の出来事。
 でもそれが……もし互いの答えなのだとしたら。自分の知らぬところで悩みぬいてた兄の背中を、ただそっと押しただけなのだとしたら。
 この美しい兄が、ずっと自分と同じ気持ちで、いてくれたのなら。

 勢いよく起き上がったアルムは、歓喜に導かれるまま、ぐっと兄の身体を引き寄せた。

「アルム…っ」
「わかってるよ。でも、もう少しだけ」

 非難めいた声で名を呼ばれても、アルムは止まらない。思慮深い兄が一歩を戸惑うなら、自分が先に闇へ踏み入り、手を差し伸べればいい。
 深く口付けるアルムの唇に、躊躇いながらもクリスは応えてくれる。舌を絡め唾液を混ぜあって、ようやく唇を離したアルムは、もう一度強く兄の身体を抱きしめた。

「俺が貴方を、守るから」
「………」
「一生そばにいて、貴方を守ってみせる。誰にも傷つけさせたりしない。貴方は俺のものだ…離さないから」

 熱っぽく囁くアルムの言葉に、クリスの身体は大きく震えた。
 青ざめるクリスの表情に気付かないアルムは、それを彼の歓喜だと受け取った。

「愛してるよ、クリス…永遠に愛してる」

 クリスはその言葉に答えず、少しだけ寂しそうな顔で微笑んだ。
 もしこの場に、彼のことを深く知るもう一人の男がいたら、殴り飛ばしてでもアルムを引き離したかも知れない。
 でも、ここにいるのは二人だけ。
 同じ者の血を受け継いだ、同じ罪を犯した二人だけだ。

 淡い金色の髪が、全てを諦めたように横へ揺れる。「もう行きなさい」と繰り返され、今度は逆らわずに、アルムは身支度を整える。
 ベッドの上で自分を見つめるクリスにもう一度近づいて、柔らかく肩を引き寄せた。

「身体は大丈夫?」
「ああ、平気だよ」
「良かった。…じゃあ、行くね」

 ちゅっと唇に吸い付いたアルムを、クリスはどこかぼうっとした表情で見つめている。
 幼く見える上目遣いが、なんだかいつもの凛とした兄だとは思えないほど、可愛くて。
 アルムは幸せそうに微笑んだ。
 
 
 
 名残惜しさを感じながらも、周囲に気を配って部屋を出る。いつもいる不寝番の兵士は、交代の時間なのか席を外していた。
 ぱたん、と静かな音をさせて扉を閉める。
 この向こうで兄は一人、昨夜のことを思い出すだろうか。羞恥も躊躇いも失って、獣のように自分を求めた熱い時間を。
 そんな風に考えたら、顔に血が上って抑えがきかない。
 第二王子であるアルムの私室は、同じ階の東側。しかしどうしてもこのまま戻る気になれず、西側にある兄の部屋から、すぐそばにある外階段へ飛び出した。
 まだ暗い朝の空気が、冷たく頬を叩く。
 叫びたくなる衝動を必死に堪え、思いっきり息を吸って吐き出した。

 もっと、とねだったクリス。
 もっと深く、と甘える声。

 どんなに引き締めようとしても、次から次へ蘇る記憶が、アルムの頬を崩れさせてしまう。身体中で叫び声を上げている歓喜に急かされ、勢いよく階段を降りて、そのまま庭へ踏み出した。