首都で発行される、社会問題や政治を扱った高級紙、ブロードシート。真偽のほどもわからないスキャンダルばかりを書き立てる大衆紙、タブロイド。そして地元の小さな新聞社が発行している小部数の地元紙。それらは泰成が毎日目にしている順番に並んでいく。
「…お茶、というのは?」
「は?あ…はい。こちらで用意していただいているお茶は香りがきつく、泰成様のお口に合わないと思いまして、首都で淹れさせて頂いているものと同じものを。今、用意いたします」
てきぱきとお茶の用意を始めた秀彬の後ろ姿を、驚きを隠せずに見つめる。彼は泰成の知らない所で、いつの間にか優秀な従者として成長していた。
何も言わず、何を命じられなくても、一人放って置かれるホテルの部屋で、少しでも泰成が快適に過ごせるよう、彼は一生懸命に考えをめぐらせていたのだろう。
「…あの、どうかなさいましたか?僕はまた何か…」
黙って自分を見続ける泰成の視線に、居心地が悪かったのだろう。また秀彬は泣きそうに眉を下げている。
秀彬の手にしたままのカップが、僅かな音を立てるのに、泰成は笑い出してしまった。そんなに怯えることはないだろうと思うのだが。
「何も咎める事などないさ。お前はよくやってくれている」
「泰成様…?」
「それは私に淹れたんだろう?早く持っておいで。お前のお茶を飲まないと、どうにも目が覚めなくてかなわない」
初めて聞いた褒め言葉をうまく理解できず、秀彬は戸惑いを隠せないまま、泰成の前にカップを置いた。
泰成はそれを手に取り、口を付ける。
確かにこの味は、泰成の気に入っている味だし、思えばこの街のお茶は、どこで飲んでも微妙な甘さがあって、好きになれなかった。
「なるほど、ね」
「はい?」
「茶葉の種類まで考えていなかったな…。いい味だ。目が覚めたよ」
素直に泰成が褒めてやると、秀彬はよほど嬉しかったのかほわっと頬を染め、しかしすぐに困惑して眉を寄せた。
「…なんだ?」
せっかく褒めてやったのに。
泰成が首を傾げると、しばらく迷う顔をしていた秀彬は、意を決して口を開いた。
「あの、どうかなさったんですか?」
秀彬は泰成の父親に仕える、自分の父親から、けして主人に意見したり、出過ぎた質問をしてはいけないと、固く言いつけられている。とても素直で純真な秀彬は、その言いつけを頑なに守って、今に至る。