【この空の下にC】 P:04


 それは泰成もよく知っているが、だからといって些細な質問にまで、緊張しなくても良さそうなものだ。

「そうだなあ…お前は?お前から、今の私はどう見える」
「え?!ぼ、僕からですか?!」
「ああ、そうだ。怒らないから、思ったことを言ってごらん」

 水を向けられても、秀彬はしばらく言葉を紡げず、泣きそうな顔で泰成を見つめていた。どうしたんですか、と尋ねるぐらいで、顔を強張らせるのだから、当然なのかもしれないが。
 しか意地悪く、いつまでも黙って答えを待っている泰成に、このまま沈黙が続く方が不敬だと気付いたんだろう。唇を震わせながら「僕は…」と呟いた。

「なんだ?」
「…僕には、泰成様が喜んでいらっしゃるように…見えます…」

 顔面蒼白、と言うのは今の秀彬のためにある言葉だろう。がちがちと歯の根が合わないほど震えている少年を見て、泰成は堪らずに笑い出した。

「ははは!秀彬、なんて顔をしてるんだ」
「も、申し訳…ありま、せん」
「いやいや、咎めてるんじゃないよ。お前はもう少し自分の立場を理解した方がいいんじゃないか?」
「は?…あの」
「なあ秀彬…確かに今お前は幼くて、出来ないことの方が多いかもしれない。しかしお前はゆくゆく、私の家令(カレイ)となるんだろう?世界を相手にする私の右腕として、私の代わりに家を守ってくれるんじゃないのか」
「はい」

 そこだけは譲れないのか、今までのおどおどした態度からは信じられないくらい、きっぱりした声で答える。真剣な眼差しの秀彬に、泰成はにやりと笑った。

「なら、もう少し慣れることだ。こんな会話ぐらいで私は、お前を咎めたりしない。そんな風に怯えられると、私も息が詰まるしな」
「お、怯えるだなんて、そんな」
「怯えていたじゃないか。私がそんなに怖いかね?」

 怖いというなら、秀彬にとって泰成より怖い人間などいないはずだが、でも少年は首を横に振った。
 秀彬にとって父の後を継ぎ、泰成の家令となることは、心の底から願う夢だ。
 決められた道、というものがどうにも気に入らない泰成は、秀彬が来栖の家など継がず自由になりたい言い出したとき、出来るだけその意思を守ってやりたいと思っている。しかしそういう泰成の一方的な思いは、今の秀彬にとって余計なお世話でしかない。