ふっと肩の力が抜けたように思って、泰成は背もたれに身体を預けた。
何かが上手く回り始める瞬間、というのは、こんなものかもしれない。
華々しくもなく、騒々しくもない。
ただ静かで、あたりまえの時間。
「それにしても、私が喜んでいる、か。そんなにも私は浮かれているんだな」
「泰成様」
「なあ秀彬。ここへ一人、客人を招きたいんだが、構わないか?」
何でも手に入れられる自分の腕に、あの美しい人とこの無垢な少年だけを抱える。
それは泰成と言う器の大きさに対して些細なことかもしれないが、何かとても満足のいく、完成した世界が見えるように思える。
少しでも早く、惺を迎えに行ってやりたかった。
「お客様ですか?勿論それは、僕が口出しすることではありませんし構いませんが…泰成様、まだ当分こちらにご滞在になるのですか?」
「ああ。そのつもりだが…どうした」
きょと、と不思議そうに首を傾げている秀彬に、急に何を言い出すのかわからず、泰成も訝しげな顔になる。
秀彬は手を伸ばして地元紙を取ると、それを開いて、広告のような一枚刷りの記事を泰成に差し出した。
「例の犯人が捕まったと聞いたので、泰成様が喜んでいらっしゃるのは、そのせいなのかと思ったのです」
「…捕まった?」
「ええ。今朝捕まったと、ここにも書いてありますし」
泰成は驚いて、手渡された記事を見た。
印刷に間に合わなかったのか、ガリガリと荒い紙に刷られた記事。そこには確かに殺人鬼逮捕の文字が躍っている。
「忘れてたな…」
ここ最近は、惺を追うのに夢中で、街へ来た目的がおろそかになっていた。
日を詰めて犯行が続いたのは知っていたが、いつの間に捕まったんだろう。
読み難い乱雑な印刷に目を走らせていた泰成は、その意外な内容に、思わず口元を歪めてしまう。
「…まったく、私を飽きさせない人だ」
「はい?」
「秀彬、すぐに出掛けるから、用意を頼むよ」
「かしこまりました」
「警察と、娼館に寄って…夜半にはなるが今日中に戻ってこられるだろう。客人を紹介するから、待っていなさい」
薄っぺらい紙を畳んで、泰成は楽しげな様子で腰を上げる。
慌しく刷られた記事。そこには捕われた犯人の詳細が書かれていた。