立て続けに現れる東洋人二人を、物珍しく見つめている署内の警察官たち。彼らを横目に警察署を出て、出たところに惺が立ち止まっているのを見つけた泰成は、ようやく追いついたかと駆け寄ったのだが。
彼は泰成の目の前で、大勢の人々に囲まれてしまった。
「ほら見ろ…苦手なくせに」
惺は他人との関わりを、極端に避けている。泰成から逃げている時も、必ず人気のない場所を選んでいた。
泰成はそんな惺を見て、よほどの人嫌いなのかと思っていたのだ。自分にも最初から取り付く島もない態度だったし、人気のあるところで惺に会ったことはなかったのだから。しかし、昨日。泰成は惺と共に宿へ入って確信した。
惺の態度は、単なる人嫌いなんかじゃない。理由はわからないが、どうにも彼は他人との関わりを怖れている節がある。
惺を取り囲んでいるのは、記事をモノにしようと躍起な新聞社の人間たち。それから、被害者たちの家族もいるようだ。
取り縋られ、喚きたてられている惺は、表情を強張らせている。
泰成は溜め息を吐いて手を伸ばし、取り囲まれている惺の肩を掴むと、強引に自分の方へ引き寄せた。
その瞬間、わあっと非難の声が上がる。
「黙りたまえ!この国は紳士と淑女の国ではないのかね?私の言葉は通じているか」
「泰成…」
「何なんだ!アンタは!」
「彼に縁のあるものだ。いいか?すぐに発表があるだろうが、彼は今回の事件になんの関わりもない。殺人鬼はまだ、この街を横行している」
泰成の言葉を聞いて、辺りがしんと静かになる。しかしそれも僅かな時間だった。
「信用できるものか!私の息子は戦争でお前たちと同じ国の人間に殺されたんだ!」
「確かにそれは不幸なことだが、戦争での被害なら我々も同じ立場だ。あの戦いでは君たちが勝ち、我々が負けたのでね。…おい、お前」
淡々と話す泰成は、すぐそばにいた新聞記者に話しかける。
彼が有名なブロードシートの記者だと言うことは、泰成自身が殺人鬼を追っていた頃に知っていた。
「君は今までの被害者を調べたと言っていたな?」
「あ…ああ。確かに言った」
「ならわかるはずだ。この人の細い腕で、犯行は可能かね?警察の言う根拠には、彼を特定するだけの信用があるのか」